081

東北の町に暮らす女性たちの悩みに、ひとつひとつ、ただ、向き合っていきたい

栗林美知子

NPO法人ウィメンズアイ理事、南三陸所長/パン・菓子工房oui工房長
宮城 南三陸

「その人らしさ」が認められたら、コミュニティも成長する

─── 色々新しいことにも挑戦しながら、進んでいるんですね。支援が形になってきたなと手応えを感じることはありますか?

すごく大きな変化が目に見えてわかるっていうことではないんですが、既存のつながりとは別に、もう少し広域で多様な女性たちのつながりが増えていっているかなとは思います。

昨年から南三陸町の子育て支援事業「子そだてハッピープロジェクト」を始めたので、小さな子どもを育てているお母さんたちとつながって、一緒に活動する中でいろんな可能性も感じています。

─── いいですね。すこしずつ女性たちも、自分らしく生きやすくなったり、子育てがしやすくなったりしている?

うーん、それは……どうかな。すぐに子育て支援が充実するわけじゃないし、女性の悩みが解決できるわけではないです。相談事業をしていると、より深刻な悩みを聞くようにもなっています。まだ、子育て中は家からほとんど出られないという人の声も聞きますし、子育て支援のニーズ調査をすれば、こんなに地域差があるんだと愕然とすることもあります。

ただ、この10年間、たくさんの女性たちとお話ししてきて、例えば「WEと一緒に小さなナリワイ塾」などWEが主催する講座を受けてくれた方たちが、少しずつ変化を起こしている姿を見られるとすごく嬉しくなりますね。

─── どんな変化が?

例えば、ずっと一人で趣味のお花の寄せ植えをされていた方が、マルシェやイベントに思い切って出店されていたりだとか。ビジネスとしては小さくても、その人らしさが認められて、活躍できる場所があると、人って自立して本当にイキイキしていくんだなあと感激するんです。

それから相談窓口で悩みを抱えていた女性が、イベントに旦那さんとお子さん連れで楽しそうに参加されていたりする姿を見ると、「あ、彼女がここに来たいって決めて、自分で家族を誘って来たんだろうなぁ」って嬉しくなって。細々とでもやってきてよかったのかなと思える瞬間ですよね。

─── 少しずつ外に開かれていく姿を、10年かけて感じているんですね。
東北に暮らす女性たちの幸せについてずっと考えてきた美知子さんなわけですが……。美知子さん自身は、今後はどんなふうに暮らしていきたいと思っていますか?

えー、私ですか!(笑)。

実は、「みっちゃんの幸せを大事にしてね」とか「結婚しないの?」とか心配してくださる声もあり(笑)、確かにいい人がいたら結婚したいなという気持ちはあります。けど……。結局、私自身が、今、この瞬間の生活を不幸せとは思っていないんですよね。だから、まあいいかなぁ、という感じかなぁ(笑)。

─── もっとここでやりたいことがある?

はい、新しいことをやりたいというよりは、ここに女性支援の活動が在り続けることに意味があると思っています。

まだまだこの場所の、地域社会が抱えている課題は何も変えられていないんです。最近WEのミッションの中に、「女性たちを取り巻く環境を手当していく」という言葉を入れました。個人の頑張りに頼るんじゃなくて、環境を変えていくしくみを作ることはとても大切です。

ただ、知れば知るほど恐れも生まれるし、自分が先頭にたって地域の他のアクターに働きかけていくことは得意じゃなくて……正直、試行錯誤中です。もっとスマートなやり方ができたらいいけど、やっぱり、私自身は、女性たちに会って話を聞いて、コツコツ積み上げていくことしかできないのかも。

─── それが美知子さんの良さでもありますよね。

うーん、だとしたら……やっぱり、引き続きこの地域で女性たちに寄り添いながらサポートすることなのかなと思っています。

また海外に行きたいなと思うこともあるし、色々な世界の場所で新しい価値観に触れたいという気持ちはあります。でも、とにかく、ここでの暮らしは私の中では全然終わってないんです。だから、ここにいて、皆さんと一緒に、少しでも暮らしを良くするための努力を、続けていけたらいいなと思っています。

誰かのためにとかじゃなくて、自分はこの場所ですごく変わったと思うんです。パソコンに向かう仕事の合間に、土に触れたり、畑で作業したりして。自然に癒されてるということだけじゃなくて、本物の自然相手にのんびりする暇がないくらいやることがいっぱい(笑)。ここで暮らしてると逞しくなるし、生きてるって感覚が増してる気がします。そういうのが楽しいんですかね。

1 2 3
栗林美知子
1979年和歌山生まれ。東日本大震災での災害ボランティアを機にNPO 法人ウィメンズアイ(WE)の前身団体立ち上げに参加。それまでの国際協力の仕事を辞め、WEの事務局長として宮城に移住。復興過程の南三陸町で、地域の女性たちとともに、人をつなぎコミュニティを育てる活動を続けてきた。2016年に、地域の女性たちと地産品を活かしたパンを作る「パン・菓子工房oui」のプロジェクトを立ち上げ、工房長に。2020年よりWE理事兼南三陸所長。ワークショップデザイナー、国家資格キャリアコンサルタント。

NPO法人ウィメンズアイ https://womenseye.net/
パン菓子工房oui https://www.instagram.com/pankashikoubou_oui/

インタビュー日 2023年3月29日
取材・文 玉居子泰子
写真 古里裕美

おすすめインタビュー