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10年前に見たかった未来に立ち戻り、「平地の杜」の風景を次世代に

佐藤尚美

(一社)ウィーアーワン北上 代表理事/平地の杜プロジェクト
宮城 石巻

杜から始めて、心から続けたい「仕事」を作り出す

─── 高田さんとのワークショップを、もう何回か実施されてますよね?

そうですね。最初は高田さんファンの参加者が多くて本当に全国からという感じだったんですが、回数を重ねるごとに、石巻を始め、宮城や岩手の人が増えてきて。そういう人たちと「きたかみ園藝部」というコミュニティを作っています。

北上で最初の杜づくりをしている場所は元々は長塩谷っていう集落で、震災前は、29世帯の人が暮らしていました。今、近くに高台移転したのが7世帯。ある世帯は93歳のご夫婦なんですけど、杜づくりに来てくれるんですよ。何かある時に声かけするとみんな来てくれたり、イベントの時にはお母さんたちのもてなしでお昼を作ってくれたり。でも、それぞれ何か頼まれなくても、勝手にいろんな花を育ててくれたり、苗を持ってきてくれたりする。土木的な作業自体に住民さんの出番は少ないかもしれないけど、応援してくれるだけでも十分。私たちは楽しいなって思いながらやれている、こんな仕事があったんですかっていう衝撃ですよ、本当に。

─── これ、どういう枠組みで仕事として成り立たせたんですか?

復興応援隊の事業内容を、「移転元地の利活用」にシフトしてもらえたんです。結局、被災による移転元地自体が市の課題になってるんですよ。たとえば石巻市は全体で被災移転元地を165ヘクタール買い取っていて、そのうち、実際には活用の見込みがない土地が100ヘクタールほど。それを草刈りし続けると……年間3億円かかるって試算されてるんです。

被災移転元地は、被災自治体共通の課題になっているので、そこに復興応援隊が取り組むっていうこと自体はすんなり通ったんです。

─── なるほどー!

なので今は、復興応援隊としての仕事とウィーアーワン北上の自主事業の部分を組み合わせてやっています。市も、被災移転元地活用にあたってのガイドラインや補助金の整備をちょうど2020年に始めていたんですが、住民から了承を得て緑化したり景観を良くする事業に対しては補助を出す仕様にしてくれていて。

あと、例えば、アドバイザー講師料など金額が大きくてその補助金だけで賄えない部分は、復興庁の補助金申請をしています、自走を目指したのに、また補助金だのみの団体に逆戻りしちゃったんですがね。でも、心から続けたいって思えるようになった。こうなったらもう、あるものは何でもうまく使ってやりたい、やっとそこまでのモチベーションが持てるようになったかな。

─── 最初に杜づくりのことを隠していた仲間たちは、今どんな反応ですか?

今はもう、私よりハマってるような(笑)。

ひたすら山で落葉を拾うとか、どんぐりを拾うとか。この間も笑ったけど、子どもたちがやってる「あつまれどうぶつの森」ってゲームあるじゃないですか。あれのリアル版だよね、みたいな話をしていて。作りたいものを、どんどん自分たちで作ってくっていう。

やっと、「ウィーアーワンとしてこうしていきたいね」みたいな、将来の希望が定まって、スタッフと協力できるようになった。それまでは、私がやりたいことと、地域にとって必要なことと、お金のためにやらなくちゃないことって全部バラバラだったんですよ。その全部がやっと噛み合ったのがこの平地の杜。ただ、お金のことは解決しないけどね、一向に(笑)。

─── でも楽しそうです、しかも、この楽しさを知る人が増えると、ますます景観も良くなるという。

そうそう。景観を良くする、綺麗にするって作業自体が楽しいんですよね。普段、携帯とパソコンのにらめっこで1日費やして、 脳みそだけ疲れて、どれだけ五感を使っていなかったかって、自分でもびっくりする。高田さんが色々細かいことを指導してくれるんですけど、五感を使ってよく考えろみたいなことを言うんですよ。冗談を言い合いながらも、だから、本当に楽しい。高田さんとも、相性が良かったかもしれないですね。

─── それも大事ですね、北上が土中環境による平地の杜づくりのモデルになると、いずれ仕事になりえそうにも思いますが?

そうですね。土中環境の視点での庭づくりを自主事業としてやっていけたらと。それを主軸に、空いてる時に平地の杜の作業をやって、苗も育てて、それを庭づくりにも循環させる。その事業をどうやって作っていこうかと。

高田さんを紹介してくれた大工さんは伝統工法で家を作っているんですが、彼の周りの人たちには土中環境や、私たちがやろうとしてる「エコテリア」にも、すごく親和性がある。

─── エコテリア?

エクステリアとエコを掛け合わせた造語で、エコテリアって言い始めたんです。自然の素材、大地を良くする資材だけで、お金はかけられないけど、手はかけられる。ニッチな世界だけど、一定数のお客さんはいそうです。土中環境とは?っていうことを自分の言葉で話せるようになるまでは、まだまだ私たちの勉強もスキルも足りない。ただ一方で、偶然ですが宅地の土中環境改善からのスタートなので、これを応用して民間の庭にシフトしていければいいなと。金額は小さいけれど、自分たちで稼げる仕事っていうのも1個2個見え始めてきて。あ、もしかして、これって本当に頑張れば現実になるかもと。

─── なんだか、もしかしたら天職が見つかるかもみたいな?

そう、まさかの。私、極端な話、造園屋になろうとしてるわけじゃないですか。実は、高校を卒業した時に本当は造園屋を希望して受験してるんですよ。修学旅行で京都に初めて行った時に見たお寺の庭がすごく綺麗で、こういう庭を作りたいって思って造園屋を受けたんですが、課題の絵が描けなくて落ちてる。それで建設業の方に行ったんですけどね。

今思うと、あ、そういえば昔やりたいって思っていたなと。いろんな、これまでの50年の人生の点だった部分がつながって面になったのが、この事業なのかなって思っています。

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佐藤尚美
1973年生まれ、石巻市出身。地元の高校卒業後、重機会社に10年以上勤めたのち、税理士事務所などを経て、フリーランスで会計代行を行うように。ファシリテーター研修を無料で受けられると聞き、石巻市の男女共同参画推進委員に手を挙げる。また、これがきっかけで声をかけられ、震災の1〜2年前から北上のまちづくり委員に。震災後、任意団体ウィーアーワン北上を立ち上げ、地域に必要とされたお店をオープン。同時に、復興応援隊として地域復興、地域づくりの仕事に取り組む。2017年、ウィーアーワン北上を法人化。2021年6月、平地の杜づくりプロジェクトを開始。2023年2月、グリーンインフラ大賞防災減災部門 国土交通大臣賞受賞。昨年、3人の子どもも巣立ち、自由に時間を使えるようなった。人と話すことが好き。

平地の杜づくりプロジェクト https://www.heichinomori.com/
ウィーアーワン北上 https://www.i-kitakami.com/

インタビュー日 2022年12月4日
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美

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