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この感情を忘れない。桜も歌も、未来につなぎ残していくための形。

伊勢友紀

特定非営利活動法人桜ライン311 副代表/シンガーソングライター
岩手 陸前高田

コンプレックスだったことが、今では自分の武器に

─── 友紀さんが副代表を務める、「桜ライン311」の活動について教えてください。

陸前高田市で東日本大震災の教訓を後世へ伝えるため、市内の津波の最大到達ライン170kmに桜を植樹する活動をしています。桜には、もしまた同じような自然災害が起きた時に、桜のラインより高い場所へ避難して、命を守ってほしいという願いを込めています。現在まで、1,978本の桜を植えてきました。

目標としている17,000本までは、まだまだです。地道な活動ですが、これまで、全国から来てくださる参加者さん、支援者の方、地権者さん含めて地域住民など、たくさんの人たちに支えられて続けてくることができました。

─── 素敵な活動ですね! 桜には、色んな人たちの想いが込められているんですね。植樹を通して、色んなドラマが生まれそうです。

そうですね。私自身も桜ラインの活動がきっかけで、人とのつながりが広がりました。また、プライベートでは若い世代との交流もあり、名古屋市と陸前高田市の中学生交流にも7~8年関わらせてもらっています。仲良くなって直接やりとりしているうちに、悩み相談を受けることもありますよ。

写真:桜ライン311提供

─── 友紀さんは、世代問わず仲良くなれるんですね。中学生にはどのようなアドバイスをするんですか?

自分も同じようなことで悩んでいる時期があったなと思うんですよね。「今悩んでいることも個性だったりしますよ」と伝えています。

実は小さい頃から、人と話すことは好きでしたが、自分の声に自信がなかったんです。低い声だし、人前で朗読するのも苦手でした。そんな私ですが、働きながら、シンガーソングライターとして音楽活動を続けています。

─── すごい! どのような経緯で音楽活動を始めたんですか?

小さい頃からは歌は、ずっと好きでした。20歳の時に、東京でエキストラのアルバイトをしていて、その時出会ったプロデューサーの人に「あなたの声はすごくいいね! キャラクターのある声で、絶対演歌とかいいでしょう」と言われました。歌が好きとは言っていないのに、この人すごいなって。声には自信がないと思っていたのに、そういう風に見てくれる人もいるんだなってビックリしましたね。このことが、歌をはじめる一つのきっかけになりました。

─── 友紀さんを後押ししてくれた出来事でしたね。そこからどのように、音楽活動を広げていったのですか?

本格的に歌手活動を始めたのは、2010年からです。声をかけてくれたプロデューサーの人が音楽事務所をやっていました。そこと関わるようになってから、色んなオーディションなどに声をかけていただいて。そんな頃に、SNSを通じて連絡をいただいた人からの紹介で、オーディションを受けてレーベルに所属することになったんです。次の月には、ライブの出演が決まって、ちょっとずつ歌う機会も増えてきましたね。ライブをしながら、CDの制作活動にも挑戦してみました。

写真:本人提供

─── CD制作もしているんですね!

はい。当時作曲は、レーベルのプロデューサーがしてくれて、作詞は全部自分でやりました。「こういう曲を作りたいです」とプロデューサーに伝えて、届いたメロディーに実体験をもとに書き留めておいたフレーズを乗せて作りました。

作詞経験はゼロでしたが、やってみると楽しくて、自分の想いが形にできるので嬉しいです。

─── 初めてのCDには、友紀さんのどのような想いを込めたのですか?

初めて書いた歌詞は、弟への想いを綴っています。実は、不慮の事故で弟を亡くし、そのことがきっかけで、書くことを始めました。その時は、「この感情を忘れるな!」と思って、手紙のように思ったままを書きました。歌詞を書き始めた頃に、音楽活動へ声をかけてもらったりと、全てのタイミングが合いましたね。なるべくして、その時期に始められたんだと思っています。

─── とても辛い経験でしたね……

私にとって、今までで一番辛い出来事ではありました。でも、歌詞を書いたり歌手活動を続けていくなかで、「今辛いことがあっても、これからはプラスなことが待っているんだ。どん底まで落ちたら、あとは上がるだけだ」って切り替えができるようになりましたね。

初めてのオリジナル曲は、弟を想って書いた歌詞ではありますが、誰が読んでも想いを重ねてもらえるような歌詞になるように意識しています。この曲に限らず歌詞を書く時は、なるべく色んな人に届くようにと思って書いています。

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