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地域づくりには正解も終わりもない。だから私は傷つき、成長する。

小林奈保子

なみとも代表/cotohana 共同代表
福島 浪江

一番大切なのは、自分も地域も不幸にしないこと

─── 奈保子さんは学生時代からいろんな地域、団体で「地域づくり」をやってこられたわけですけれど、理想の地域づくりってなんだと思いますか?

う〜ん……、それは全然正解がないけどー……。いや、正解はない! 「地域づくりは正解がない」っていう公式があると思う。だからどこまで行っても「やりきった」っていう感覚はないよね。全然的外れだったなと思うこともあるし、すごく成功して見えても「今度はあの人の話も取り込んでいかなきゃ」ということもある。でも地域ってきっとこれまでもそうだったんじゃないかな。終わりなんかなくて、ただ地続きにつながっていく。

─── それって仕事としては手強いですよね。正解もなければ終わりもない。どうやってモチベーションを保ってこられたんですか?

長期的な目線があると燃え尽きにくいと思います。地域人口の増減もあるし、フェーズも変わっていく。3年後、5年後、10年後っていうスパンで地域を見ながら、そこに自分の姿も重ねていく。つまり、地域の形だけではなくて、そこで活動する自分が3年後どうなっていたいか。5年後はどうなっていたいか、10年後は……? って、自分軸があるとモチベーションが下がらずにいられます。これが、自分を置いてけぼりにして「地域の人たちのために!」って他人軸だけがモチベーションになってると燃え尽きちゃうんです。

─── 意外です! 逆かなと思いました。「自分がどうなりたいか」を押し殺して「地域のために」を優先させたほうがいいのかと。

どっちも! どっちも必要なの。応援隊時代も、そういう「地域のために」だけの人が何人も来た。「僕はこの地域のためにこんなこと、こんなこと、こんなことを実現しに来ました!」って言うのね。でもその子は採用して半年で辞めちゃった。その人のやりたいことが、実は地域に求められていなかったり、スピード感が違ったりして、実現できないからなの。

でも、その人自身に“ここで活動することでこうなりたい”っていう自分軸があれば違っていたと思う。地域のためという他人軸、自分のためという自分軸……。どっちかだけだと絶対どん詰まりになる。私も何度か失敗したことがあるから偉そうには言えないんだけど、良かれと思ってやっていることだから、地域の人も自分も不幸にならないようにしなくちゃ。

─── そういう失敗しちゃったときや、行き詰まったときはどうやって持ち直すんですか?

相手と膝付き合わせて話をするのはもちろんだけど、五感を使って癒されることかな。頭を使いすぎると鈍くなってくるんだよね。感性が鈍ってワクワクしなくなる。そういうときは普段活動している地域から逃亡して、自然の中に身を置くようにしています。滝を見てマイナスイオンを感じたり、川に足を突っ込んだり、蝶々をみつけて「あ、チョウチョだー」って思ったり(笑)。これは浪江のツアーでも大切にしてることなの。参加者には、知識として震災の話を入れ込むだけではなくて、ここに立って「風が強いなぁ」とか、「波の音が聞こえるなぁ」って感じてもらう時間を作る。この地域、この風土、この文化の中でああいう震災があったということを感じてほしい。震災が浪江の全てではないから。

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小林奈保子
1987年生まれ、福島県田村市出身。学生時代から地域づくりに関わり、卒業後も福島県内のさまざまなNPO団体で地域づくりを行う。2017年4月から夫とともに浪江町に移住。2018年に「なみとも」、2019年に「cotohana」を立ち上げ共同代表として活動している。ライブがきっかけで絶賛B’z沼にハマり中。

なみとも https://www.namitomo.org/
cotohana https://cotohana.net/

インタビュー日 2022年4月15日
取材・文・写真 成影沙紀

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