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舞根という土地に惹きつけられ、選択してきたことが形になっていく
畠山菜奈
舞根キッチン
宮城 気仙沼
ここにあるものがすごく好き、その一部になれたことが本当に嬉しい
─── 海の仕事がしたかったということ?
ここの人たちって、海の仕事、海がすーっごく好きなんだなっていつも感じていて。海での暮らしそのものが仕事であったり、楽しみだったり、作ったものが食卓に直接あがったり。 海と直結しているこの土地の暮らしを体感してみたい、一緒に感じてみたいって思っていたんでしょうね。
それで、ホタテの仕込みの一番忙しい時にバイトを始めたんですが、その仕事がものすごくハード(笑)。ただ私、空手をずっとやってきて体育会的なところがあって。一番若くて体力にも自信があったので、役に立てたのかな。助かるっていう言葉、菜奈ちゃん助けてっていう場面があって、それに応えられる自分もあった。無心にやってガシガシ汗かいたり、それが気持ちよかったですよね。体に合ってるなーって思って、こんなに合う仕事あるんだなーって。
─── 聞いてるだけでも大変そうですけど、合ったんですね、菜奈さんに。
11月初めからの1か月くらいのつもりでしたが、そのまま12月までいました。その2か月間は、食事を水山の家で一緒に食べさせてもらって、夕食の支度も一緒にして。繁忙期の山場を超えた12月21日の日にもう終わりって決めて。ああ、来年からまた仙台で仕事を探して勤めるんだなあって思っていました。帰る時は、工場のお母さんたちがみんな総出で見送ってくれました。工場の中の一人のお母さんなんかは、その3日前くらいから、本当にいなくなんのって怒って口聞いてくれなくって。でも最後の日はすごく泣きながら、「まだ、だいんよ〜(おいでね〜)」って。
─── なんと。なかなか「とと」にたどり着きませんね(笑)
ほんと(笑)……その後、年明けに舞根で「ヘイヨウエ」っていう伝統行事があって。子ども達が家々を回って大漁唄い込みをするんですが、習慣や行事にも興味があったので、それを見に来たら、帰りにととがあっちの岸まで船乗せてってあげるよって。そこで、「結婚して、舞根で暮らさないか」と言われました。本当に、お付き合いもしていなかったんですけど。
─── えええええっ! 驚いたでしょう?
驚いたんですけど、驚いたのに、ああ、こういうことなんだ、なんだか道理に合うってすごく思って。翌日、自分の中でもう答えは決まっていて、よろしくお願いしますってお返事しました。その後、水山にご挨拶に行くんですけれども、それまで住み込みで働いてた間柄でひと回り年の差もあるし、えええーって、驚かれました。
─── すごい展開ですね!
舞根という土地が、ここにあるものがすごく好きで、その一部になれたっていうことが本当に嬉しくて。そんな場所との出会いってなかなかないじゃないですか。私、性格的には踏み出すのにはかなり勇気がいる方なので、自分でもなんでこんなに通ってるんだろうって不思議でいた中で、惹きつけられて選択してきたことが、こういう形になって。ととがそうして迎え入れてくれたことに、ありがとうっていう気持ちでいっぱいで。
─── ほんとに、引き寄せられた感じですね……。
震災前の舞根の海を見たことがご縁なのかな。私は、ととが「この土地で育った人」っていうことにも魅力を感じたんだと思います。ととのおばあちゃん、実は、津波で亡くなったんです。震災で亡くなる方もいたけれども、来てくれた人もいる、だから、そうやって縁は大事にしなくちゃいけない。おばあちゃんが連れてきてくれたのかなあって言ったりもしていて。
最近、子どもたちを見ていると、浜の子に育ってるなーって思います。私が大人になって初めて体験することを、子どもたちは0歳でもう体験していたりする。ここでの当たり前をいっぱい吸収して、外の世界に出たらびっくりしてほしいな(笑)。
─── 舞根でのこれからが楽しみですね!
キッチンカーがあると、舞根でも販売ができるんですよ! 行楽シーズンにはここで購入した美味しい海産物を使ってキャンプやバーベキューをしてもらえたりしたらいいなあ。普通の観光よりも、もっと暮らしを感じてもらえたらと思います。
いつか、フランスみたいに海辺で生牡蠣を剥いて食べたりできるといいですよね。ブルターニュといえば、そば粉のガレットということで、そばも植えました。フランスとのご縁や、ご支援いただいたみなさまの想いが今の私達に繋がっています。カキじいさんが語る森と海のこと、海辺の風景、この土地の空気感。舞根キッチンで伝えたいことがたくさんありすぎて(笑)。夢はどんどん広がります。
*森は海の恋人 気仙沼唐桑の舞根湾で養殖業を営む畠山重篤氏が代表を務めるNPO法人。海の豊かさを支えるのは森の豊かさであるとし、森の手入れをはじめとする環境保全と啓発活動とを行なっている。
- 畠山菜奈
- 1986年生まれ、宮城県涌谷町出身 。高校卒業後、仙台のスポーツジム、百貨店などで接客の仕事に。一旦仕事を辞めて福島県のロッジで働くつもりが、「森は海の恋人」の里山整備活動に参加したことがきっかけで、気仙沼唐桑の舞根に通うように。震災後、舞根での片付けの手伝いに通ううち、水山養殖場でのアルバイトで海の暮らしと浜の仕事の楽しさに気づき、水山養殖場の次男、畠山耕氏と結婚。2022年3月から、「舞根キッチン」の屋号で、地元での海産物の直販事業をスタート。3人の男の子のお母さん。自然散策と、人と話すことが好き。
舞根キッチン instagram @moune.kitchen
㈲水山養殖場mizuyama-oyster-farm.com/
NPO法人森は海の恋人 https://mori-umi.org/
インタビュー日 2022年4月13日
取材・文 塩本美紀
写真 志田もも子
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海をイメージしたハンドメイドで好きなことを表現し、気仙沼を盛り上げたい