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動き始めれば、何か変わる。いつか、ここならではのチーズを作れたら

早坂良枝

チーズ工房 STUDIOどどいち
宮城 大崎

無理だと思っていた、「またチーズを作りたい」という気持ちを話してみた

─── 良枝さんはそもそも、どこでチーズづくりと出会ったんですか?

私、実家が大崎市田尻の農家なんですけど、農業高校卒業後に、北海道の酪農の大学に進学しました。3年生の時に先輩の手伝いでモッツァレラ作りをやらせてもらった時に面白いなーって思って。その時は遊び半分でタイミングが合えば手伝うという感じだったんですが、いざ自分の卒業論文のテーマを決めるという時に、よし、チーズでやろうと。そこが始まりです。

卒業後は北海道で就職し、チーズづくりの仕事を3年やりました。そこはもともと、酪農で牛乳の出荷だけしていたところなんですが、それだけではやっていけないということで、自社で絞った牛乳でチーズを作り始め、牛舎の目の前で飲食店も展開するような会社でした。

─── そうなんですね。宮城に戻ってきたのはどうして?

自分の中ではもう何年か北海道でやりたいっていう思いがあったんですけど、そもそも、北海道で就職するっていうことについて家族と意見の相違があって。ずっと、「そろそろ帰って来るんでしょう?」みたいなやりとりが続いていたんですよね。

それで、25歳の時にとりあえず宮城に帰ることにしたんです。2011年の3月でした。3月7日にフェリーで北海道を出発して、8日に宮城に着いて、翌日の9日には後から考えると東日本大震災の前震となった震度5弱の地震がありました。本当にたまたまですよね、呼ばれたねって、そのときは言われたりもしました。3月11日の地震では津波こそないものの内陸の大崎市でもやっぱりいろいろと被害があって、地盤によっては全壊する家も出たり、水道も2週間ほど止まったりしていました。

帰ってきて最初の1年は、チーズをまた作り始められるとはとても思えなかったです。

─── そんな状況下でまたチーズを作れるようになったのは何がきっかけだったんですか?

同級生が、「きらっと」というおおさきのNPOに勤めていて。ちょっと遊びに来ない?っていう感じで、テーマを決めていろいろ話すカフェみたいなイベントに誘ってくれたんです。その時に、またチーズを作りたいという思いがあることを話しました。

そうしたら、なんかちょっとやってみたら? って言ってもらえて。公民館の調理室でチーズづくり体験会をやることになりました。一人でやっていると心が折れそうだったので、一緒にワイワイやる人たちがいるとまた違うかなと。そうして、平日の仕事自体は100%郵便局勤務だったんですが、土日にチーズづくりをするという機会ができてきました。

それと、これもその同級生が誘ってくれたんですが、2012年から石巻STAND UP WEEKというのに参加して、街の人や移住者の熱に触れてこんなに面白い人、コトがあるんだ! と感じたことは、自分のやりたいことを実現するエネルギーになったかもしれないです。内陸だからなのかペースがゆっくりなところがあるんですが、石巻や南三陸、海のそばの人達にはすごく刺激を受けました。

─── 商品のチーズを作るには、体験と違ってまたハードルがありますよね?

はい、チーズを作っても販売するとなると製造許可のある場所で作らないといけないので。そしたら、チーズづくりの体験会に参加してくれた人が、仙台でチーズづくりやっている方がいるって教えてくれたんです。2014年くらいにそのチーズ工房の方の知り合いにつないでもらえて、スポット的に間借りをして作らせてもらえることになりました。

それで、一緒にイベントに出店したりするうち、私の作るチーズを知ってくれる人が少しずつ増え、飲食店で使ってくれるというところも出てきました。私の方も郵便局の仕事だけから、だんだんチーズの仕事を増やしていって。動き始めれば、何か変わる。この頃、すごくそれを思いました。

でも事情があって、しばらく後にその工房の間借りを続けられなくなり、さて、これからどうしようと。何か、そこで辞めてしまうのも、もったいないと言ったら変ですけど、ようやくだんだん広まってきたところなのにと。これはどうにかしないといけないなというので、考え始めました。

─── まず、何をしようと思ったんですか?

チーズの製造許可がある場所がないとそもそも何も進まないので、自分の工房をつくろうと思い、大崎市の隣の大郷町の菊池牧場の社長に相談しました。この牧場を知れたことも私には大きかった、菊池牧場さんは放牧牛なんです。広々とした牧場に、乳牛がストレスなくのびのびくつろいでいる風景を見て、ああ、いいなあって。仙台のチーズ工房でこの牛乳を知るまでは市販の低温殺菌牛乳使っていたんですが、牧場の牛乳を使わせてもらえるようになってから量もまとまって作るようになり、これから100%菊池牧場さんの牛乳でチーズづくりをしたいって思って。

その時の選択肢としては、大郷の牧場の近くの物件を改装する案、牧場の中に工房を建てる案、大崎市田尻の実家近くに建てる案がありました。牧場の中に作るのが牛乳の鮮度的にはベストかもしれないし社長も協力するよって言ってくださったんですけれど、先々、自分の状況が変わった時に、作りに通い続けるのは厳しいかもしれないという予感があって。動きやすいのは田尻だし、ならば、しぼりたてを田尻に持ってきてやった方がいいだろうと決意しました。

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