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離れてみて分かった登米の良さ。優しいおせっかいで成り立つ地域医療
名嘉原弥生
やまと訪問看護ステーション 看護師
宮城 登米
医療ケア以上に大切な傾聴 振り返ることで後悔のない終わりを
─── 病院と訪問看護ではどんなところが違うのでしょうか?
私が今、ケアしているのは、障害のある方や人生の最終段階にある医療ケアを必要とされている方たちです。もともとは在宅医療の看護師として、医師と一緒に訪問し、サポートをしていましたが、より多くの方のケアをしていきたいと思い、3年ほど前に看護師だけでも訪問ができる「訪問看護ステーション」を作りたいと院長に言ってみたら、「いいよ。頑張ってごらん」って言ってくださって。今は訪問看護をしながら、全体をまとめる管理者としての仕事もしています。
病院と訪問看護の違いは、病院はどうにかして病気を治すか症状を緩和させて、家に帰そうとするのに対し、訪問看護は出会ったときから人生の最後まで伴走者の立場で患者さんに寄り添います。病気を治すことが目的ではなく、生活に入り込み、その方が望む人生の幕の閉じ方を理解した上で、最善を尽くすという方針です。
─── 具体的にはどんなことに気を配っているのでしょうか?
その方が何を望まれているかを知るためには、とにかく耳を傾ける姿勢を持つこと。でも、見ず知らずの人に、すぐに何でも話してくれるわけじゃない。だから、まずは私のことを知ってもらおうと、自分のことを話します。すると、だんだん心を開いてくださり、ぽつりぽつりといろいろなことをお話してくださるようになります。
人生を振り返っていくと、それまで気がつかなかった大事なことに気づけるんです。例えば「こんな病気になってしまって……」と投げやりになっていた方が、これまでのいろいろなことを思い出し、「俺の人生、いいことがいっぱいあったじゃん。よかったじゃん」と、納得して死を受け入れるようになったり、いつも当たり前のようにお世話をしてもらっていた奥様に対して、「ずっと支えてくれていたんだな。最後にちゃんと感謝の言葉を伝えないとな」と気づけたりする。そうやって、最後にちゃんと自分の人生と向き合い、後悔のない終わりを考えるお手伝いをさせていただいている、といったらいいのかな。看護師なのでもちろん医療的なこともするけれど、それ以上に私は、その方の生活や人生に寄り添うことを大切にしています。
─── いろいろな気づきがあるんですね。
最近は、回想法という心理治療の一つで、患者さんにこれまでの人生を語っていただき、話し言葉のまま1冊の本にまとめる「聞き書き」もしています。「聞き書き」のよいところは、ご本人が自分の人生を振り返りいろいろなことに気づける点と、そばでお世話をしていた遺族の心のケアにもなることです。病院であれ、自宅であれ、家族を亡くしたときは、「本当にこれで良かったのかな」と遺族は何かしらの心残りがあるもの。でも、これを読むことによって、「良かった、幸せな人生だったんだな」と、ホッとすることができます。また、話し言葉で綴っているので、故人を懐かしむことも。どちらにとっても、大切なものになるんです。
─── 仕事でつらいと思うことはありませんか?
やはり、お別れが多いというのがつらいですね……。その方のために最善を尽くそうと、今私ができることをやっていますが、それでも亡くなられたときには「これでよかったのかな……」と思ってしまうこともあります。一緒に働いているステーションの看護師たちも、みんなそう思うときがあるんです。だから、毎日訪問が終わると、看護師同士で今日あったことを語り合って、一人で抱え込まないようにしています。今、ステーションには5人の訪問看護師がいますが、そのうちの一人が私の妹なんですよ。妹も以前は別の町で訪問看護をしていたのですが、私が「一緒にやらない?」ってスカウトして。他のメンバーももともと知り合いで、気心の知れたメンバーというのも、心の安定につながっています。
─── 病院の仕事とはだいぶ違うんですね。
一人で患者さんのところに訪問するので、もし何かあったらどうしようと心配する看護師は多いのですが、何か医療的なことで分からないことがあれば、今はiPadを使って、すぐに医師に確認をとることができます。ですから、病院の経験が浅くても、人と話すことが好きという若い看護師がいたら、ぜひうちに来てほしいですね。今後は現場を続けながらも、若い看護師を育てていき、今以上に地域の医療を充実させていきたい。それが、この町に戻って来た私の役割なのではないかと思っています。
─── 15歳で登米を離れ、久しぶりに戻って来てどうでしたか?
改めて、この町の良さに気づきました。田舎なので、近所づきあいとかおせっかい文化が今もあるんですが、そのおかげで在宅医療が成り立っているんだな、って思うんです。私たちの仕事は、患者様のケアをするといっても、せいぜい1時間一緒にいる程度。あとの23時間は、ご家族が一緒の場合はいいけれど、一人暮らしの方はずっと一人で過ごすことになります。でも、昔からの近所づきあいやおせっかい文化があるから、近所の人が「調子はどう?」「おかず持ってきたよ」と見に来てくれる。ある60代の女性がお亡くなりなったときは、一晩中、近所のご友人が付き添ってくれて、その方に見守られながら安らかに息を引きとられて……。そういうのを見ると、田舎っていいな、温かいなって思うんです。
─── お子さんたちの反応はどうでしたか?
長女が小学2年生のときに戻って来たのですが、神奈川の学校では1学年7クラスもあったのに、こっちは1クラス9人。しかも、そのうちの8人が女子という……。転校すると連絡したときに、真っ先に「男の子ですか? 女の子ですか?」と聞かれて、「女の子です」と答えたらちょっとがっかりしている感じで、なんでかな? と思ったら、そういうことだったんだ〜って(笑)。
こっちに来たばかりの頃は、よく子どもたちが「公園はどこ?」って聞いてきて、「公園なんかないよ。こんなに自然がいっぱいあるじゃない」と言っても、それまで遊具でしか遊んだことがないから、遊び方が分からないんですよ。だから、「虫取りはこうやるんだよ」「竹で鉄砲が作れるんだよ」と、見本を見せながら遊び方を教えました。今ではすっかり登米っ子ですけどね(笑)。 沖縄出身の夫は、この町で沖縄料理店を始めました。友達が一人もいない中での移住でしたが、持ち前のコミュニケーション力で、今は私よりも友達が多いんじゃないかな。病院に勤めていた頃は、家のことは夫に任せきりだったけど、今は時間にも余裕ができて、4人の子どもたちとワイワイ楽しんでいます。仕事にやりがいを感じているし、家族と過ごす時間も楽しいし、我ながらなかなかいい人生だなと思っています。最期にも、そう言えるような人生だといいな。
- 名嘉原弥生
- 1982年宮城県登米市生まれ。高校進学をきっかけに地元を離れ、仙台、秋田、神奈川で暮らす。叔母の影響で看護師を目指し、大学病院で9年間勤務したのち、訪問看護の世界へ。祖父が在宅医療を受けていたことがきっかけで、やまと在宅診療所に関心を持ち、Uターン転職をする。現在は同院の訪問看護のリーダーとして活躍。4人の子どものお母さん。 家族やスタッフたちと焚火やバーベキューをするのが楽しみ。
やまと在宅診療所 https://tome.yamatoclinic.org
やまと訪問看護ステーション https://www.facebook.com/yamatonurse
インタビュー日 2022年3月22日
取材・構成・ライター 石渡真由美
写真 佐竹歩美
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