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帆を張る船のように。風を受け、相馬を行く

黒田夏貴

浜の台所 くぁせっと店長
福島 相馬

7年で3回被災。でも「ここが好き」って気持ちがなくならない

─── 食堂はオープンから1年半経ちましたが、いかがですか?

想像を絶します(笑)。このお店は席数が40ほど、営業時間は昼だけなんですが、10回転以上する日もあるんです。信じられないですよね! 先週も普通の日曜日なのに凄まじかったですね……。「あれ? ゴールデンウィークってまだだよね?」なんて言いながら。相当大変ですが、「今日すごいねー! 頑張ろー!」「あと1時間、いけるいけるー!」って声を掛け合って、みんなその忙しさを楽しんでくれています。感動ですよ。お客さんに「おいしかったよ」と言っていただけるのはもちろんですが、私はスタッフの方が楽しそうに働いて、気持ちよく帰ってくれるのが何より嬉しいし、安心します。

改めて、相馬のポテンシャルの高さを感じます。私は震災後の相馬しか知らなかったんですが、ここは観光地なんだなと。景観が綺麗で、海水浴場があって、おいしい魚介類があって……、震災前の相馬の立ち位置を感じた1年半でした。「こんなにいっぱい人が来るの?!」がずっと続いている感じですが、みんなの力でなんとか回せています。本当に頼りになります、みんなが。

─── 相馬に移住して7年、「もう嫌だ! 離れたい!」と思ったことはありませんか?

一回もないですね。こないだの地震では家が住めない状態になっちゃって、昨年2月にも地震、3年前には水害で車がダメになっちゃいましたけど……。離れたいと思ったことはないですね。さすがに今回の地震は被害が大きくて、初めて母にも「地元に帰ってきたら?」と言われましたが、「ここにいたい」っていう気持ちがなくならない。なんでなんでしょうね〜、本能かなぁ。誰かのことを好きになるのと一緒なのかもしれないです。理由ってないじゃないですか。全然タイプじゃなかったのに好きになっちゃった、みたいな。そんな気持ちがずっと続いていますね。

─── 仮に、10歳年下で「地域で活動したいんです!」という子がいたら、黒田さんは何て言葉をかけますか?

「“地域のことを考えて”何かしたいのか、“自分の夢を叶えるために”何かしたいのか、どっちですか?」って聞くかな。正直、私はやりたいことなんかなくて相馬に来ました。地域のために何かしたいと思っていたので、地域から望まれないことをやっても自己満足になるだけです。そこのズレがないようにしなきゃいけないって考えてきました。もちろん、夢を叶えたくて、フィールドとして地域を選ぶならそれはいいんです。でも、地域との関わりを持ちたい、地域の人にわかってほしいと思うなら、とるべき行動は変わる気がします。

─── これからのことって何か考えていますか?

私あんまり先のこと考えられないんです。目の前のことをきちんとやってたら、導いてくれる人が現れてやりたいことが叶ってきた。今後もたぶんそういう流れで生きていくのかなと思います。40歳も目前になってきたので、素敵なパートナーにそろそろ出会えたらなーとは思います。一緒に居る人は地域の事を考えてる人がいいですね。そうじゃないと話が合わないと思うので。周りの人も誰か紹介しようと思ってくれてるみたいで、「なっちゃんに合いそうな人はなかなかいないんだよなー」とかぶつぶつ言ってるのが聞こえます。

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黒田夏貴
1984年生まれ、茨城県土浦市出身。地元で10年間美容師として働いた後、被災地ボランティアをきっかけに2015年福島県相馬市に移住。NPO職員、福島大学のサテライトスタッフ、そうま食べる通信の編集部などを経て、2020年より浜の台所 くぁせっとの店長を務める。趣味は旅行や野外フェス。

浜の台所 くぁせっと https://www.facebook.com/QUASETTO/

インタビュー日 2022年4月14日
取材・文・写真 成影沙紀

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