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帆を張る船のように。風を受け、相馬を行く

黒田夏貴

浜の台所 くぁせっと店長
福島 相馬

相馬の人に導かれて、人に、仕事に、出会ってきた

─── 相馬に来てからはどんな活動をしてこられたのでしょうか?

最初の3年間はNPOの職員として、仮設住宅のコミュニティづくりや復興イベントの企画運営をしていました。「そろそろ相馬以外の地域も見てみたいな〜」と思っていたときに、ちょうど福島大学の相双地域支援サテライトがスタッフを募集していると教えていただいて。2年間、南相馬と大熊にそれぞれ拠点を置いて活動しました。そして「私はやっぱり相馬が好きだな〜」と思っていたところに、相馬の魚屋さんから「そうま食べる通信を一緒にやらない?」と言われて。

─── 「そうま食べる通信*」ってなんですか?

2015年に創刊した食べ物付き情報誌で、一年に4回、相馬地域の農家さん、漁師さんを取材して、実際に彼らが育てた食べ物を付録にしてお届けするというサービスです。相馬の漁師さん、土建屋さん、魚屋さんなどが集まり、編集部となって制作していました。実は、編集部のメンバーとはNPO時代に知り合っていたんです。次の世代のためによりよい相馬にするということを一番に考えて活動している方々で、「こういう人たちと仕事したいな〜」と思っていたので、誘っていただいた時は嬉しかったですね。

食べる通信では、なんと言っても生産者の話を直接聞けるのが楽しかったです。私、料理なんか全然できないのにレシピ担当に任命されて、料理の楽しさを知ることもできました。漁師さんと一緒にご飯を食べる機会も多かったのですが、漁師さんの手料理って本当にびっくりするぐらいおいしかったんです。魚の旬や一番おいしい食べ方を知ってるからなんですね。うちの家族は旅行好きで、年に一回家族でいろんなところに行くんですが、どこよりも断然、相馬で食べる魚が一番おいしいです。「相馬にいて、相馬の魚で人を呼び込む仕事ができたらいいな……」ってぼんやり考えていたら、一緒にそうま食べる通信をやっていた漁師さんに「この食堂の店長やらないか?」っていうお話をいただいたんです。
(*現在は休刊中)

そうま食べる通信編集部のメンバー(提供:そうま食べる通信)

─── 念ずれば叶う、ですね。すごい!

本当そうですね! 「こんな人と働きたい、こんな仕事をしたい」と思ってきたことがだいたい叶っています。その時、その時で導いてくれる人がいたんですね。

─── 導いてくれる人にどうやって出会ってきたんですか?

親しくなりたいと思う人たちがいるイベントにはたった一人でも参加しました。相馬って外から来て地域活動している人ってほとんどいないんです。地域おこし協力隊の制度もまだないですし。移住者コミュニティもないし、地域に入ったらどうすればいいかというお手本もない。だから相馬に来たばかりの頃は、イベントや集まりに顔を出しまくりましたね。ただ、私は人見知りするタイプなので、参加したからと言って積極的に話しかけたりはできませんでした。挨拶して、「何か手伝えることありませんか?」って手を動かしながらその場にいました。

─── なぜ、周りの人が黒田さんを導いてくれたと思いますか?

うーん……、なんでだろう……。「周りをよく見てるよね」とは言われます。昔からマネージャー気質というか世話好きというか、「あの人今、何を望んでるのかな?」と考えて想像して、先回りして動くのが好きなんです。私は地域の活動では地元の人が目立って活動していくのが一番良いなと考えていて、その活動を二番手として支えたい。普段からそういう姿勢が出ていたのかもしれません。

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