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この感情を忘れない。桜も歌も、未来につなぎ残していくための形。
伊勢友紀
特定非営利活動法人桜ライン311 副代表/シンガーソングライター
岩手 陸前高田

気づけば10年。桜へ込めた想いが、たくさんのご縁を結んでいる
─── そんな友紀さんが、桜ライン311に入ったきっかけは何だったんですか?
東日本大震災が起きた時は、東京で介護職員として特別養護老人ホームで働いていました。震災が起きて、家や家族は無事だったのですが、友だちや親戚など大変な思いをしている人たちがいると考えたら、地元で今できることがあるはずと思って、震災から半年後に陸前高田にUターンしました。帰ってきて、1年くらいはアルバイト生活をしていたのですが、そんな時に、当時の桜ライン311の理事に声をかけてもらったんです。
─── 声をかけてもらった時は、どのような気持ちだったんですか?
私がやりたいことは「これだ!」と思いましたね。
植樹の活動やボランティアを募集していたのは、SNSを見て知っていました。趣旨にも賛同していたし、自分も地元のために……という想いがあったので。当時は任意団体として活動していましたが、2012年10月に事務局体制がスタートするタイミングで、私も入職しました。
─── 今年で入職して10年の節目になりますね。この10年を振り返ってみてどうですか?
この10年で、桜ライン311事務局としての体制は整ってきたと思っています。当時は何もない状態からのスタートだったので、大変でした。私自身も介護職しか経験がなかったので、手探り状態で、勉強しながら覚えていきました。入職からずっと、植樹チームの担当をしています。入職した時に、代表から「あなたはコミュニケーションが得意だから、地権者さんの対応は、任せた!」と言われました(笑)。ありがたいことに、私の性格を理解して、任せてくれているので、やりがいを持って取り組めています。
─── 具体的には、どのようなお仕事内容になりますか?
桜を植える場所の確保のため、地権者さんとの交渉を主に行っています。最初は、「津波到達ラインに土地をお持ちの方、桜を植えさせてください」と市内の方にチラシやハガキを送って交渉していました。だんだん、反応がなくなってきて、それから1件1件直接伺って話をしたり、植えている地権者さんから情報をもらったりして、地道に範囲を広げていきました。分かりやすい活動ではあるのですが、りんご畑や田んぼを所有する方から「虫が出るから嫌だ」とか、地権者の人はいいけど、近隣住民からの反対など、色々な理由で断られることもありますね。

─── 交渉はなかなか大変そうですね。うまくいくために、気をつけていることはあるんですか?
地権者さんは、高齢者の方が多いんですよね。人と接したり、高齢者の人とお話をしたりするのは好きでしたし、介護のお仕事での経験が生かされているのかなとも思います。桜を植える目的だけじゃなく、おじいちゃんやおばあちゃんとお茶のみをしたり、お話を聞いていると、それぞれ悩みを抱えているんです。震災で家族やお子さんを亡くした人など、この地域の人たちは辛い思いをしている人が多いので……。話してみないと分からないなと思います。たくさん、聞いて話しているうちに、心を開いてくれていつの間にか打ち解けていますね。
─── きっと、友紀さんだからできることですね!
最初は、震災の想いや伝承、人の命を守る。という使命感が強かったのですが、今は桜がつながっていくのと、その何倍もの人や笑顔がつながっていく活動だと思っています。
ボランティアで来た人と地権者さんが仲良くなって、お家でご飯をご馳走になったり、泊まったという人もいました。家族を亡くした地権者さんからは、「ボランティアの人が来てくれたことで、救われた」と話す人もいましたね。中には、植樹会に参加した人同士が結婚したケースもありました。つなげようとしてやっている訳ではないのですが、桜がたくさんの縁をつないでいるんだなって。それがすごく嬉しいですね。

─── 歌も桜も形は違いますが、それぞれの想いを込めた活動という点では同じですね。
そうですね。介護もそうですし、自分がやってきたことって全部意味があると思っています。「桜ライン311をやりながら、歌手活動もやるのは大変でしょう」と言われたりしますが、どちらもいいバランスでできていると思っています。桜ライン311は、震災で亡くなった方々への鎮魂の思いと、未来へ同じ思いをさせないために桜で残す。歌の活動は、最初は悲しいことがきっかけではありましたが、今まで支えてくれた人たちへの感謝、恩返しの想いを歌で残す。どちらも同じような想いがあって、未来につながっていく活動かなと思って続けています。
─── 桜ライン311の活動、そして友紀さんの歌がこれから先の未来、たくさんの人たちに届くよう、期待しています。
ありがとうございます。現状、地域の人の関わりが少ないなと感じています。最終的には、桜を植える意味、津波から命を守ることを伝えていかないといけないので、もっと地域の人が、植樹などの活動に参加したり、理解してもらうことが大事だと感じています。そして、その人たちが子どもや孫に伝えつつ、桜もみんなで守っていこう! と何十年、何百年先までも続く活動にしたいと思いますね。私も、8月に出産を控えているので、生まれてくる我が子へもしっかりと伝えていきたいと思っています。

- 伊勢友紀
- 1984年生まれ、岩手県陸前高田市出身・在住。東京の大学で社会福祉について学び、卒業後は特別養護老人ホームで介護職員として4年半勤務する。27歳のときにUターンし、2012年10月に「桜ライン311」に入職。現在は副代表を務めながら、植樹チームで主に地権者との交渉を担当している。プライベートでは、シンガーソングライター「雪音」として陸前高田市を拠点に音楽活動も行っている。歌うことの他に、食べ歩きや温泉巡りも好き。
桜ライン311URL https://www.sakura-line311.org/
シンガーソングライター「雪音」 https://m.facebook.com/yukine22
インタビュー日 2022年5月18日
取材・文・写真 吉田ルミ子(一般社団法人トナリノ)
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