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地元で美容師として働きながら、ママたちが笑顔になれる場づくりを続ける
小川麻里子
ままりば代表
岩手 大槌
「ものづくり」があると、行きやすい場所に
─── 当時から「ままりば」って名乗っていたんですね?
そうです。最初の頃は、地元のお菓子屋さんを呼んで和菓子づくりを教わるとか、お花屋さんにフラワーアレンジメントを教わるとか。助成金を場所代や謝金に当てていました。ママ友を中心に呼びかけて、家族も声かけしてくれて、結構人が来てくれたんですよね。2013年頃、みんな仕事もできず、やることがあんまりなかったのもあって。
─── お母さんたちが連れてくる小さいお子さんたちはどうしていたんですか?
最初の数回は予算もあったので託児の人を頼んで別の部屋で子どもを預かってもらっていましたが、だんだん、お互いに見るみたいな感じになっていきました。やっぱり笑顔が良かったですね。ママたちが笑顔で帰って行ってくれるのが、すぐにわかる変化でした。
─── 当時、被災地での居場所づくりやサロン活動を行う人は結構いたけれど、続けるのってすごく大変だと思うんですよ。
そうですねえ、続きましたね。「楽しかった」「またやって」「もうやらないの?」の声に押されて。ものづくりとか、料理教室とかが中心でした。料理教室では、子育てママと年配のお母さんたちと一緒に多世代交流もやっていました。この辺りの若いお母さんたちって、身近な人にお料理教えてとは言わないなあと思って。地元の伝統的な料理、おばあちゃんたちが作るような料理を若いお母さんは作れないので、こういうところで一緒に交流して作れればいいなと思ったんですよね。それで、食生活改善推進員さんを先生に、まずは出汁巻き卵の出汁を取るところから教わったり。あとは、こっちの料理の巻き寿司だとか。それも公民館でやっていました。
─── そのほかにはどんなことを?
あとは、花植えをしたり、編み物をしたり。編み物では、やっぱり少しでもお母さん達にお金をっていう気持ちがずっとあったので、遠野のEAST-LOOPさんからお仕事をいただいて、大槌で商品のハートブローチを作る取りまとめもやっていました。
─── EAST-LOOPさんのハートブローチは、ウィメンズアイでも仕入れをして東京のマルシェなどで販売していたんですよ。
そうだったんですか! ハートブローチは仕事の仕組みになっているからやりやすかったですね。本当は、集まるだけじゃなくて、何かやっぱりちゃんと利益が出ることがしたくて……ままりばに来たお母さんたちが持ってきたバッグや小物を預かって、盛岡の手しごと絆フェアで販売したりということはあるんですが、なかなかちゃんと仕組みにできず。ままりばらしいものを作って売れたらいいなっていう思いはずっとあるんですけどね。
─── 初期の頃は色々な支援や助成がありましたけど、今はどうしてるんですか?
基本一人でやっている感じです。ここ数年は助成金なども取っておらず、謝金も出せなくて。本当は仲間がいると助かるんですけど……。だから、2015年のグラスルーツ・アカデミーで花巻のまんまるママいわての助産師・佐藤美代子さんに初めて会えてつながれたことはすごく心強かったです。
─── そうだったんですね。
まんまるさんの産前産後ケア事業・大槌ママサロンでは、ママスタッフとして月1回ハンドマッサージを行っています。そこに来ているお母さんたちの中には子育て支援センターでは見かけない方もいて、間に入って色々情報交換ができているかなと思います。自分も最初の子どもの時に支援センターに行きにくい部分もあったので、ちょっとわかるというか。何か、ものづくりとかする時は行きやすいけど、いきなりはなかなか……。
─── 居づらい、感じなんでしょうかね。コロナ禍になってからはどうしていたんですか?
ままりばとしての集まりはできなくなってしまっていて……。大槌子育て支援センター「かりん」などに、ものづくり講座の講師に行ったりしています。簡単に作れるカラフルなソーラーライトとか、エアプランツでちょっと飾りをつくってみるとか。小さいお子さんを育てているママって、針を使うものは敬遠しがちなので、自分もやってみたいちょっと楽しいものを探しては、みんなでやっている感じです。
─── そうこうしているうちに、お子さんたちも大きくなられたでしょう?
そうですね、長女はもう家を出て専門学校に行っています。4人目は今まだ5歳です。
─── そうなんですね、すごい! 幅広い世代の子育てママたちと一緒に歩んできたんですね。新米のお母さんたちにとっては、すごい頼りになる存在ですね。
最近は共稼ぎの方が増えていて、コロナ禍の前あたりから、若いお母さんはなかなか集まらなくなってきているんです。むしろ、元気なおばちゃん達の講座の講師をやってほしいと言われます。沿岸はやっぱりおばちゃん達が強いですから。
─── もしかして、子育て支援センターに来る親子も減っていますか?
減っています。赤ちゃんを産んですぐ1年ぐらいで仕事に復帰する人が増えていますね。早く復帰したいという声も聞くし。そうなってくると、休みの土日に預かる場所が必要なんじゃないのかなって思ったりもするんですが……。お母さんたちがちょっと美容院や買い物に行く間とか、リフレッシュする間。でも多分、外からは休みの日にしかお母さんが子どもとふれ合えないんだよって思われる、難しいですよね。
─── フルタイムで働くママたちは、職場か家かってことになりそうですね。何かのときに支えになる場所があるといいけど……。
コロナ禍の間に、自分が本当にこれでいいのかとか、そろそろ潮時なのかなとか、結構自分に問うことがあって。でも、ある先生から、ママの支援はずっとずっと必要なんだよって言われたんです。子どもに「あれ?」って問題があるとき、実は親が問題を抱えていたりする。いつもママを支える人たちが必要なんだよって。それで、「あ、やっぱりママのお手伝いをしていていいんだなぁ」って思えました。細く長くできれば、っていう感じでここまできていますし、これからも、できることをやっていけたらと思います。
- 小川麻里子
- 1978年、岩手県大槌町生まれ。高校卒業後に盛岡の専門学校を出て美容師に。3年ほど盛岡の美容院で働いたのち、Uターンして実家の理美容院で働き始め、今も両親とともに続けている。働きながら子育てしてきた、4人のお母さん。震災後に内閣府の起業プログラムの研修に参加し、ママの居場所を作る「ままりば」をスタート。ものづくりが好きで、ものづくりをしながら集うサロンを続けてきた。最近では、ものづくり講座の講師として、大槌の他団体の依頼も受けることも多い。
URL https://mamaliber.com
Facebook アカウント名 ままりば
https://www.facebook.com/100064442181847
インタビュー日 2022年5月19日
取材・文 塩本美紀
写真 土橋詩歩
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