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肩書きは自分で決められる。デザイン業が地域の中を楽しくつなぐ御用聞きに
武藤琴美
ゆきしろ屋/デザイナー/地域ディレクター
福島 二本松

改めて、地域密着型デザイナーとして起業することに
─── すごいタイミングですね。どんなミッションの地域おこし協力隊だったんですか?
地域に入ってなんでも自分で課題を発掘して解決してください、みたいな、ざっくりした募集でした。配属先は道の駅。当時駅長の山崎さんが地域のためだったら好きにやりなさいって言ってくれまして。この方も女性なんですけど、もともと道の駅を作ろうと思って作ったわけじゃない、と。
─── おお、なんだか、面白そうな匂いがしますね
2、30年前に農業の研修でドイツに行って「グリーンツーリズム」を初めて知って。これを故郷でやりたいと、帰ってきて仲間作りから始めたそうなんです。それで、田んぼの真ん中に直売所を作って農産物を売り始めたら話題になって、建物ができて、その建物が拡大して道の駅に登録されたという。この方が私の2人目の女性上司なんですけど、彼女の元で地域に解き放たれました(笑)。夏休みの子ども教室、高校生とのカフェ、婚活イベントなど好きにやらせていただいて、地域のいろんな人と知り合うことができました。
─── 地域おこし協力隊任期終了後どうするか、悩む人が多いと思うんですが、どう答えを出したんですか?
道の駅での本採用はどう? と声をかけてくださって、すごく悩みました……。協力隊って、自分が培ってきた人間関係、地域に詳しくなったこと、これをいかして貢献したいって思うと欲張っちゃうというか。結局私は、まちづくり事業を福島県全域でやっているベンチャー企業でのちょっとハードな仕事にチャレンジしたんです。そうしたら、そこで働き出して1か月後に、病気が発覚したんですよ。婦人科系の腫瘍が見つかって、しかも、切ってみないと良性かどうかもわからない、癌かもしれないと言われて。
─── えええっ、大変なことになりましたね。琴美さんが何歳頃のことですか?
病気がわかったのは28歳でした。それで、一旦そのベンチャー企業は辞め、岩代の家で療養生活を始めました。身動きが取れないけれど元気は元気だったので、チラシの制作などを請け負うことにしました。協力隊をやっていたおかげで、色々声をかけてもらえて、もしかするとこのまま暮らすことはできるかもっていうくらい仕事をいただけて……。商工会や自営業の方たちと話すうちに、地域内で仕事をしていくことが地域貢献になるんだなって改めて感じて。頂いた仕事をこなして発行物を1個1個ちゃんとやっていこうって気持ちになり。あ、これは開業届を出さねばって、2018年の夏に「ゆきしろ屋」という屋号で起業しました。
結局、腫瘍は切ってみたら、良性でそんなに悪くもなかったんですが、体調に気をつけながら働くようになりました。

─── 岩代で、結婚もしたんですよね?
あ、そうです、30歳の時に。相手は協力隊の時に一番最初に怒られた人です。地元のお祭りに馴れ馴れしく来て、地域の事情も知らないのに余計な提案をしないでほしい、みたいな感じで。それから協力隊期間中ずっと3年間無視されてたんですけど。不思議です。
今は、旦那の家が持っていた空き家を改装して、オープンスペース兼事務所のゆきしろ屋と、住まいと、民泊に使っています。
─── デザイン事務所だったら、特にオープンな場所を持たなくてもいいと思うんですが、なぜ改装までして?
地元の仕事って原稿渡すからチラシを作ってくださいっていうより、一緒に考えてください、みたいな茶飲み話から始まることが多いんですよ。だからオープンな場所が欲しかった。カメラ担いでイベント撮影に行ったり、おじいちゃんにスマホの使い方を教えたり、私、何屋なんだ? って感じですけど、肩書きは自分で決められる。そもそもデザイナーが通じないので、「御用聞きみたいなもんです」って言ってます。
あと、ふらっと「インスタ頑張ってやったけど、使い方よくわからん」みたいな人とか、「自宅でパソコンやってると鬱になりそう」とか、いろんな人が来ますね。勝手にコワーキングみたいに(笑)。料金設定とかもしてなかったんですけど、先に人が来るようになっちゃって。で、みんな気を使ってお金を置いていくから、いや、なんかこっちもごめんなさい、みたいになって。最近、コーヒーとか好きに飲んでいいから、一律300円でやりましょうってことになってきましたけど。

─── 面白い。みんな琴美さんと喋りたいから来るんだね。
「はっきり言ってくれるから、助かる」って言ってくれる人がいて。NPO時代に代表が、原因を探して解決するために言うってことをスタッフにも課していたので、その癖ですかね。デザイン以外のことも口出ししてしまうから、生意気だなって言われることも多々あるんですが。
協力隊の時も生意気って言われてすごいへこんでたんですけど、さっき話した元駅長の山崎さんに「箸にも棒にも引っかからないようなつまらない仕事されても困るから、生意気って言われるくらい仕事しろ」って言われて、ああ、と。ほんとに素敵な上司たちに恵まれたとしか言えない。山崎さんは2年前から夢だった農家民宿も始めました。今は一緒にいわしろMaisonっていう移住受け入れ団体もやっています。 地元で商売やってる人も、地元で暮らしてる人も、移住してくる人も、旅行に来る人も、みんなで、ここを楽しめたらいいですよね。デザイン業ですけど、ゆきしろ屋が、つなぎの役目を担えたらいいなって思っています。

- 武藤琴美
- 1988年、福島県二本松市生まれ。地元工業高校の情報システム科デザインコースを経て、文化服装学院の総合デザインコースに進学、主にグラフィックデザインを学ぶ。在学中のボランティアを機に教育に関心を持ち、小学校臨時教員を経て教育系NPO法人に勤務。NPOの活動を通じて子どもたちが地域に愛着を得ていく過程を見て、地元福島へのUターンを考える。ちょうど、二本松市岩代地区での地域おこし協力隊の第一期募集に受かり、子どもの頃「隣町」だった岩代へUターン。協力隊卒業後「ゆきしろ屋」を起業し、デザインを中心に地域のモノ・コトの様々なディレクションを行う。
インタビュー日 2022年4月29日
取材・文 塩本美紀
写真 本人提供(特記以外)
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