016

子どもも大人も自然の中でのびのびできる居場所をつくり、守りたい

深澤鮎美

自然あそび広場にここ代表 保育士
岩手 釜石

初めての釜石「こすもす公園」との出会いから、一度きりの人生が大きく動いた

─── 鮎美さんは茨城県の出身で、今は、釜石をベースに自然保育の活動をしているんですね。釜石にはどんな縁があったんですか?

震災後のボランティアの一環で釜石へクライミングの壁を作りに行くと誘われたのがきっかけです。友人が所属していたNPOが障害のある人とない人とで一緒にクライミングを楽しむ活動をしていたんですが、震災後に東北の子どもたちの体力が低下しているという話を聞いたそうなんです。クライミングだったら場所もそんなに使わず、全身運動ができるから役に立てるんじゃないかと、資金を貯めて釜石に行くことになりました。2014年のゴールデンウィークに初めて「釜石ってどこだ? 遠いなー」って思いながら車で向かい、朝方着いたら、そこが「こすもす公園」でした。なんだここ、すごーい!って感動したのが第一印象でした。

─── 「こすもす公園」って、どんなところなんですか?

木を使った遊具や、ピザ窯や畑もあって……自然がいっぱいのワクワクするような場所でした。釜石市内でも遠野に近い内陸の甲子(かっし)地区にあるレストラン、「創作農家こすもす」のオーナーご夫妻が、震災後に遊び場がなくなってしまった子どもたちのために、レストランの周りのコスモス畑を公園にと始めたプロジェクトです。最初に行って以来すっかり好きになって、壁づくりやイベントで年に2〜3回通うようになったんです。行くたび「おかえり」って迎え入れてくれて、のびのびできる。興味あることをやらせてくれるのが嬉しくて。

─── 面白そうなところですね。どんな人たちが運営していたんですか?

オーナーご夫妻と、地元のスタッフさんたちです。スタッフのおじさんたちがみんな元気で、こすもす公園のイベントもグイグイ企画してやっていく。本気の議論もして、すごかったです。それまで出会ったことのない、元気で、生涯現役で、なんでも自分たちでやっちゃう人たち。かっこいいなあって思いました。オーナーご夫妻はずっと盛岡にいたんだけれど、介護で釜石に戻ってきて、釜石を元気にするためになにか面白いことをやりたいね、みんなでお茶っこできる場所欲しいよねって、実現させたのがこのレストランだったそうです。大好きなオーナーご夫妻やスタッフさんたちに会いたいなあって通ううちに、すっかり、こすもす公園と釜石に馴染んで、「移住したら?」って言われるようになっていたんですよね。

─── 当時、鮎美さんは関東で保育士として働いていたんですね?

東京の保育士養成の専門学校を出て、ずっと埼玉の同じ保育園で働いていました。園の自然派な方針も気に入っていたんですが……2015年度がちょうど年長児の担任で、それが0歳児の時から長く見てきたクラスだったんです。3月に卒園させたら一区切りだなあと思っていたときに、具体的に釜石に移住しないかと誘っていただいて。こすもすのオーナーが代表の甲子地区活性化協議会の研修生として「甲子柿(かっしがき)」という地域の特産品の販路開拓や、商品開発をするというお仕事でした。

それと、知り合いも増えて、釜石の面白いところをいろいろ見ちゃったんですよね。「釜石○○会議」の発表会があるから聞きにいくといいよと勧められて行ってみたら、老若男女、市民がやりたいことに手をあげて、グループごとに集まって活動して楽しそうだったんです。思いついて、試して、やってみている。自分たちのやりたいことを実現させている人がいるんだっていうのをみて、釜石のそういうのいいなあと思って。人生一度きりだし!

─── それで2016年に釜石に移住して、「甲子柿」の仕事をするようになったんですね。

そうです。全く知らない世界でしたけれど、すごく面白かったです。「甲子柿」って、渋柿を燻して渋抜きするから独特の風味があり「幻の柿」って言われている。もっと発信していこうと東京に売り込みに行ったり、農家さんを回って甲子柿の作り方を聞いたりもしました。

ただ制度上、研修生は1年間しかできない。それに、こすもす公園での遠足やイベントでの受け入れボランティアをしているうちに、やっぱり私は子どものことをやりたいんだなあって気持ちも強くなってきて。

─── そこから、今のお仕事を始めるのにどんなきっかけがあったんですか?

2012年のこすもす公園立ち上げ時に、震災直後にボランティアに来ていたパーマカルチャー安房のフィル・キャッシュマンさんたちが関わっていました。フィルさんが「創作農家こすもす」さんに食事のお世話になったお礼をしたいと思っていたところ、オーナー夫妻の公園を作りたいという願いを知り、自分たちの得意分野だからと実際のデザインと整備を行ったんだそうです。

私が移住した頃、こすもす公園の遊具は時間が経って傷みが出てきはじめていました。遊具を直して公園を続けるか? それともやめるか? 関わるみんなで考えようということで、話をするために2016年の年末にフィルさんがまた釜石に来てくれました。私はフィルさんとは初対面だったんですが、こすもす公園が大好きで、いつか、この公園で子どもたちが豊かに育つ場を作りたいんだって口から出てきてしまったんです。フィルさんも、こすもす公園にこんな想いの子がいるのだし、公園のメンテナンスをしようと言ってくれて。後戻りできなくなったというか、自分の気持ちを確かめたというか……。

─── そうだったんですね。

自然と子どもが寄り添いながら成長していく場所として、畑もあるしレストランもあるから食育もできる。こすもすのオーナーたちも協力的。何か形にできないかと。

そうしたら、翌年度から釜石市が「ローカルベンチャー」という制度で地域おこし協力隊員を募集することになって。協力隊の事務局にいた友人が、鮎美ちゃんのやりたいことをこの制度でチャレンジしてみたら? と、背中を押してくれたんですよ。

1 2