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心おどるほうへ。ユーモアのある絵本づくりで生産者を応援

菊池亜紀

なつき屋 代表/管理栄養士
岩手 金ケ崎

万人受けしなくても、自分のカラーを大切にする

─── 飛び込んだからこそ、得たものがあったのですね。起業したての頃と比べて、変わったことはありますか?

事業内容はだいぶ変わりましたね。最初は生産者さんが出す商品売場のポップづくりやチラシや名刺のデザインを行うことと野菜モチーフの雑貨販売が主でした。

ある日、知り合いの養鶏場を見学させてもらい、集団行動をしているニワトリには上下関係があることを教えてもらったんです。中にはいじめられてしまうニワトリもいると聞き、思わず「ニワトリに生まれなくて良かった」とつぶやいた私に対して、その鶏農家さんは「実はそうでもないんですよ。上下関係が厳しい中で、いじめられないようにするにはどう行動すればいいか、この子たちは考えているんです」と教えてくださったんです。自分らしく生きるために柔軟に適応する姿に感動し、そんなニワトリたちが生み出す卵の有り難さをどうにかして伝えたい!と思ったのが、絵本づくりのスタートでした。

ただ生産物の美味しさを伝えるのではなく、いかにストーリー仕立てで印象に残るような伝え方をするか、生産者さんに直接話を聞きながらつくっています。

─── この手描きのイラストがまたいいですよね。じんわりと心に染み込むような、ちょっとクスッと笑えたりするような雰囲気が良いです。

ありがとうございます。見たときに「おっ?」といい意味での違和感を覚えるような、面白いイラストを目指しています。プロのデザイナーさんやイラストレーターさんには叶わないし、万人受けはしないと思うのですが、こういうテイストの方が好きって言ってくれる人に刺さってくれたら嬉しいです。

その方が「なつき屋」らしさが出ていいのかなって。

─── 万人受けしなくてもいい、自分らしさを大切にする。それってすごく大事なことですね。

その方が自分もつくっていて楽しいし、好みが似ている人たちとつながっていけたらなって思います。自分の性格上、とことん一人ひとりと向き合いたいタイプなので、広く浅く付き合えないんですよね。自分を必要としてくれる人と深く付き合って、その人たちの力になれたら幸せ。何かあった時に話を振ってもらえたり、「この人なら面白いことをやってくれるだろう」って思ってもらえる存在になりたいです。 これまで農家さんの生産物を紹介する絵本がメインでしたが、今後はさまざまな業種の人に対して絵本づくりを勧めていきたいです。それから、食に関係あるなしに関わらずいろんな分野の生産者さんや事業主さんと現場で一緒に働いてみたい。どんなこともいつか何かに繋がって誰かを応援するために役立つと思うからです。いろんなことを経験した上で、いい意味で「なんでも屋さん」として誰かを応援できたらと思っています。

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菊池亜紀
1979年生まれ。岩手県一関市出身。高校卒業後、山形県の短期大学にて栄養士の資格を取得。卒業後は県内の企業に就職し、在籍中に管理栄養士の資格を取得。2006年、病院栄養士に転職し、管理栄養士として患者の栄養指導やイベント企画業務に携わる。2017年に退職し、2018年に「なつき屋」を開業。現在は、農家や食品会社などの生産物の魅力を伝えるミニ絵本等のデザインの仕事、野菜モチーフの雑貨販売、フリーの管理栄養士としてレシピ提供など、幅広く「食」に関わる事業を行っている。

インタビュー日 2022年6月15日
取材・文・写真 足利文香

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