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心おどるほうへ。ユーモアのある絵本づくりで生産者を応援

菊池亜紀

なつき屋 代表/管理栄養士
岩手 金ケ崎

食べた野菜の味に感動。「美味しい」を伝えることができたら

─── 管理栄養士はどんな仕事をするんでしょうか?

管理栄養士にもさまざまな分野がありますが、私は主に生活習慣病の患者さんの栄養指導を担当していました。栄養に関する専門的な知識が必要なのはもちろん、カウンセリング的な要素も大きいですね。患者さんの中にはこれを食べちゃいけないと分かってはいるものの、どうすればいいか分からないという人も多くいます。患者さんの気持ちに寄り添いながら行動変容を促すためにどう伝えればいいか、その方に合ったアドバイスを常に考えるお仕事です。一人ひとりと向き合うことの大切さや、伝える力は磨かれたなと思っています。

─── とてもやりがいのある仕事ですね。

はい。ただ、栄養指導の他にも介護や保育などの別分野やイベント企画など様々な業務に携わらせてもらう中で完璧を求めすぎてしまい、キャパオーバーになってしまいました。それでしばらくお仕事をお休みすることになったんです。あの時はしんどかったな……。

─── そうだったんですね……。

自分に向いている職業ではあったけれど、もうちょっと自分に折り合いをつけて仕事をすることができれば続けていられたのかもしれません。

転機となったのは、休職期間中の出来事でした。花巻のとあるカフェにランチを食べに行ったんですけど、そこで食べたお野菜が驚くほど美味しくて。この感覚を患者さんにも味わってほしいなと思った時、ハッとしました。今まで栄養価の説明など、患者さんをどう説得するかっていうことを考えていましたが、単純に美味しいって思ってもらうことも野菜を食べてもらうきっかけになるんじゃないかなって、その時思ったんです。

食に対して別の働き方をしてみたいと思ったことが、生産者を応援する事業「なつき屋」を立ち上げるきっかけになりました。

─── 「なつき屋」の原点はそこだったんですね。個人事業主として立ち上げたのはいつ頃ですか?

2018年の1月に起業しました。もちろん起業なんてしたことがないし、経営とはなんぞや? 状態。まずは人脈を開拓していかねば! と、盛岡で開かれた新規就農セミナーに飛び入り参加しました。「就農希望ではないんですけど、こういう者で、こういうことをしたくて……」って各ブースで自己紹介して(笑)

─── すごい! なかなかの度胸ですね。

就農するわけじゃないのに参加するなんて、普通だったら躊躇うはずなのに、今考えると強靭な心を持っていたなと……(笑)。世間知らずだったからできたことだと思います。

有り難いことに、そんな私の話を親身に聞いてくださる方や、他の人を紹介してくださる方もいて、そこからさらに人のつながりが生まれていきました。その時に出会った人たちの中には、今でもお付き合いのある方もいます。

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