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安全な食と安心できる場を作りたい。地域の人が出会い、つながれるように。

山崎鮎子

カフェ・ブルーア・シエーロ店主
岩手 釜石

葛藤しながら考え抜いた先は、ママに優しいカフェを目指すこと

─── 経営塾に行こうと思われたんですね。

そうですね。行かなきゃ、やらなきゃっていうか、全然わからないから何かないと駄目って思ったんですよね。月に1回くらいのいろんな講座があって、後半は自分の事業計画を立てて、最終的に10分ぐらいのスピーチをする内容でした。架空の旅館の再建計画を考えるとか、自分を見つめるみたいな講義もありました。最終的に2月の卒塾のときに、5月20日にカフェをオープンしますとスピーチをしました。

─── すごい!

周りの人がカフェをやった方がいいよと言ってくれたこともありますし、もう日付を言ってしまおうと。ママに優しいカフェというコンセプトは、この未来創造塾の中で、色々葛藤しながら考え、事業計画を立てていきました。

─── 何に葛藤されたんですか?

ママに長くいて欲しいカフェにしたいというところに重心を置くと、お店を何回まわすとか経営的なところとは対極になってしまう。実際に収支の数字を入れて、昼に2回転とかしなきゃいけないとなると、来てほしいターゲットとはずれてしまう。近隣の企業の方にランチを提供するような食堂になりたいわけじゃないっていうのは、この頃から思っていました。

─── そのコンセプトは、いつ頃から考えていたんですか?

夫の仕事の都合で、盛岡に住んでいた時に、出産を経験したんです。夫は、日頃仕事でいないし、盛岡にそんなに友達もいないし、双子なのでなかなか外に出るのも難しくって、ほぼ山田町の実家にいました。

たまたま、盛岡で勤めていた小学校からの同級生が同じ時期に産休だったので、子連れで参加できるスポーツクラブで開催されているベビーダンスに一緒に参加しました。

それからは、家にいても悶々とするし、仕事を辞めて出産して急に人と話さなくなる状況が耐えがたくって、友達と一緒に子連れで行きやすいカフェなどを利用したり、子育て支援センターに行くようになりましたね。

本当によく聞く話ですけど、出産後に感じる社会に参加していない感覚とか、孤立感とかがあって、支援センターや子どもを連れていっても大丈夫な場所がありがたかったです。だから私の中では、子連れウェルカムなカフェというコンセプトは、自分の原体験からきているんですよね。

─── 確かに、最初から子連れウェルカムな場所とわかっていると行きやすいですよね。

子どもを連れて、どういうところに行きやすいかなんてわかんないですよね。盛岡でいくつか違う支援センターに行ってたんですけど、グループの友達同士で行ってる人が多いところもあれば、必ず先生が何かの会をしてくれるところとか、支援センターにもそれぞれの色があって。

そういうところを選んで利用してもいいだろうし、お金はかかることだけど、お友達同士でちょっと喋りたいからカフェに行って、子どもはボールプールで遊んでいるみたいなのが気楽な人もいるだろうし。だから自分ができる形で、子どもを連れたお母さんたちが行きやすいカフェにしたいなっていう思いがありました。

最初はカフェも普通に土足の予定でいたんですけど、子どもはテーブルの下に入ったりもするので、未来創造塾に通って考えていく中で、靴を脱いで入る空間にしようと変更しましたね。

─── 靴を脱いであがるカフェって、アットホームな印象を受けます。営業スタイルなどはどうやって決めたんですか?

本当なら飲食は土日の営業もした方がいいけれど、私も当時子どもがまだ幼稚園だったから、一緒にいた方がいいと思って平日だけカフェの営業をしようと決めました。その中でも、月曜はイベントの日にして、カフェ自体は火水木金の営業っていう形にしました。

─── イベント日をもうけようと思ったのは?

自分が盛岡の時に通っていたような、ママ同士でお茶飲みしたり、知らない人同士が集まる機会って、普通にしてたらまずないじゃないですか。だから、この場所で何かをやるってなったら、それに興味がある人が来てくれると思って。

食べに行きたいとか、誰かと来たいっていう目的じゃなくて、興味を持ったイベント目的で来てもらう。同じ目的で来た人なら割と話もしやすいし、共同作業をする場があることで、仲良くなれる機会になるかなって思いました。

─── 一番最初にやったイベントは何だったんですか?

カフェがオープンする前月に「あたしのリノベーション」というイベントが開催されました。企画主催は、釜石大観音リノベーションプロジェクトで、会場としてここの場所を使っていただいた感じです。私は喫茶タイムでシフォンケーキとコーヒーや紅茶の提供をしました。

これから起業したり、何か新しい一歩を踏み出したい女子たちに向けて、盛岡でコワーキングスペースやサンビルのリノベーションを手掛けた女性をお招きして、建物に限らない「自分自身のリノベーション」というテーマの講演&ワークショップという内容で、いろんな地域の女性が来てくれました。

帰り際に、イベントに参加していた一般社団法人ドゥーラ協会認定産後ドゥーラの櫻井京子さんが声をかけてくれたんです。それで、カフェがオープンした翌月に第1回目のドゥーラカフェをやりました。

─── すごいスピード感ですね。

京子さんの話を聞いて、私の考えているコンセプトと合うなって思いました。あと正直、自分で全部やるのは難しいなと思っていて。もちろん自分がやりたい企画などもあるけど、子どもの見守りと飲食の提供と、イベントの講師をするようなことは、1人では無理だなっていうのはあって。だから京子さんが話を聞かせてくれて、やろうやろうってなりました。

─── 「あたしのリノベーション」のイベントの効果が出てますね。

どちらかというと京子さんが主で、私は飲食を提供する場所を運営する形でやっています。私がやりたいことをかなえてくれるし、手探りだけどそんな流れでドゥーラカフェが始まりました。

他にも結構、そんな具合に手分けしながらやっていることがあって。1年間、インターン生として徳島大学の学生さんが来てくれたことも、大きかったですね。元々、カフェで提供する自家焙煎コーヒーを「鐡(くろがね)珈琲」としてブランド化することをすすめていて。ラグビーワールドカップの会場となる釜石鵜住居復興スタジアムのオープニングイベントに出店しお披露目したんです。

ブランド化したコーヒーをどうやって周知してくか、地域の人に広げるにはどうしたらいいかなど、彼女が自分の思いで考えてやってくれて、すごく進みました。鉄瓶で入れるコーヒーがいいんじゃないかという企画を考えて、南部鉄器で珈琲をいれる日「鐡珈琲の日」を毎月開催してくれたり。外とのつながりの部分をつくることをやってもらっていました。

─── 実際にオープンしてから、今はどんな感じですか?

義母が亡くなり1年半後の2017年に、ブルーア・シエーロをオープンしたので、気付いたらもう4年目ですね。ドゥーラカフェや鐡珈琲もそうだけど、周りの人が色々やってくれることで、ここのイメージができてきているところはありますよね。もちろん、人とのつながりもすごくできてるし。

カフェとしてお店を見つけてもらうっていうことは、なかなか難しいところではあるけど、子連れで来てくれたママが、更にまた次の人を連れて来てくれたりすると、安心して来てもらえる場になってきてるかなっていう実感はあります。常連さんは、看板をクローズにしてても顔を出しに来てくれるし(笑)。

─── 今後の展望などはありますか?

コロナ禍で在宅ワークが始まったりしたときに、ドリップパックを送りたいという話をいただいたりして。場を作ることも好きなんだけれど、おうちで楽しめるブルーア・シエーロみたいな、こちらからお届けできる商品があってもいいかなと考えています。

あと、子どもも大きくなって手が離れてきたこともあるので、今までやってきたベースみたいなところは大事にしながらも、もう少し広げられたらと。私の母の年代の層とか、働いている人とか、もう少し幅広い層の人たちが集まれる場になれたらいいなと思います。

*東北未来創造イニシアティブ人材育成道場「未来創造塾」
中小企業の経営者や後継者等を対象に、複数の講師による伴走的な指導を行い経営者の資質を引き出すとともに、仲間と共に学び刺激し合うことで、自社そして地域のためにより大きな視点で構想・行動・挑戦するリーダーを育成することを目的とした経営セミナー

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山崎鮎子
1977年生まれ、岩手県山田町出身、釜石在住。5歳よりピアノ、12歳よりフルートを始める。武蔵野音楽大学卒業後、桐朋学園大学音楽学部研究科修了。その後、音楽事務所での勤務を経て、2005年に岩手県へUターン。2017年に、ブルーア・シエーロをオープンし、店主となる。フルート奏者。音楽を聞くことや演奏すること、体に良さそうなことをしてみるのが、セルフケア法。

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インタビュー日 2021年11月29日
取材・文・写真 松浦朋子

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