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心の引きこもりから、意欲的に生きるへ。楽しいという感覚を貯めていきたい
阿部史枝
猫八ソーイング/みち草工房/パタンナー・縫製士
宮城 石巻
「やりたいこと」の積み重ねで地に足がついていく。自分の根っこの充実感
─── その時に、史枝さんは起業したっていうことなんですか?
うーん、プチ起業といえばそうなんですが、気持ち的には当時複雑なところもあり。
服をつくっていると周りの人に、作家さんになりたいんでしょうとか、お店やりたいでしょうとか、売ればいいのにとか言われたりすることが多かったんです。そうすると、そういうことでやっていけなきゃいけないかな、みたいに思うようになって。
私にとって、ものづくりっていうのは……自分100%を感じられる、人から影響されない感覚を使うことというか。そういう、本当に大事な自分だけの場所だったのに、仕事にしたことで無理やりそこが表に出てきちゃったというか……。
東京にいた時も、デザインフェスタに出したり、お店に作品を委託して販売してもらったりいうことはあったんですけど……そうやっているうちに、つくることがだんだん楽しくなくなっちゃう。自分を「使える人間」にしなくちゃいけないのかっていう。それで生きる意欲みたいのがなくなってきちゃったところがあったんですよ。
本当はもっと自由に楽しかった、縫い物が楽しかった時があったなって思ったんですよね。服って作れるのかなあっていう興味で初めて作ってみたら作れた。材料屋さんに行ったらこういうのもあって、また色々使ってやってみて楽しくてっていう頃が。
─── 好きなことを仕事にする、のジレンマですね。
どこから楽しくなくなったんだろうと思うと、やらなきゃいけないになっていたんですね。楽しいの感覚を取り戻すにはどうしたらいいんだろうなあって。まずは、楽しいという感覚を貯めていきたいなあと。
今は、みち草工房で「今までなかった、こういうのやりたいんだけど」、とか、「やってみない? って声をかけてやってみる」とか、そういうことが私にとっても、シェアする仲間にも、来てくれる人たちにとっても、楽しめる場所になったらいいなあというか。普通の「やりたいこと」の積み重ねで、自分は自分でやっていけたらという想いなんです。それができてきたら、地に足がついていく、自分の根っこの充実感みたいなものがつくれるんじゃないかなあと……。
2019年の6月にウィメンズアイ のグラスルーツ・アカデミー福島に参加したんですが、安心な場で人と関わりあうとか、自分のことをいろいろ話すという経験を初めてしました。そこでの発見も、自分は自分と思うベースになったかもしれません。
─── そうですか。具体的に自分の中の変化を感じることってありますか?
この間ちょっと気がついたことがあったんです。みち草工房の大家さんでもある石巻の巻組が新しく宿泊施設をつくったんです。お披露目会があって行ってきたんですが、そこに集まって来るような人って、何かしらプロジェクトをやっている人だったりするんです。今までだと私、そういう場で人の話を聞いて、自分にはこういう視点が足りなかったとか、こういうこと意識しなきゃとか、焦りばかり感じていたんだけど、その時は「いいや」って思えたというか。前は、生み出さなきゃとか、やらなきゃとか、役に立たなきゃとか、そういう軸でばかり物事を見たり聞いたりしていたんだなあと。それは自分から出てくる意欲とは違って、焦りから出てくるものだったってわかったんです。 私が今やらなきゃいけないことは、自分の暮らしを自分の意欲で生きることだって思って。なので、目下の目標は、意欲的に人生を生きること、ですね。
- 阿部史枝
- 1971年石巻生まれ。高校卒業後、文化服装学院で服づくりを学び、東京の縫製関連会社などに勤務。震災前に石巻にUターン。震災後は石巻まちの本棚スタッフをしながら、猫八ソーイングの屋号で洋服のお直しなどのオーダーを受けるように。2019年にIRORI石巻内でシェア工房「みち草工房」を立ち上げ、現在は石巻の古民家ハグロBASEで活動中。白いご飯が好き。楽健法にはまっている。取材当時は、午前中は牡蠣むきのバイトにもいそしむ。「最近、一次産業にちゃんとふれてみたいっていう思いが出てきて。石巻に生まれ育っても、自然とつながる仕事とは縁が薄かったから」。
●みち草工房facebook https://www.facebook.com/michikusa.koubou/
インタビュー日 2020年12月22日
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美
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