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この地域で「面白い」を仕事にしていくチャレンジを広げたい

土屋美香

森のようちえん こめらっこ代表/のうのば/バングラデシュカレー屋(準備中)
福島・猪苗代

ないなら、つくる。そこから信頼関係を育てていく

─── いろんな経験を積むなかで、美香さんの中に変化はありましたか?
いろんなことに対して、諦めなくなったことが大きいですね。ここにはどうせ何もないし……と思うのは簡単ですが、ないなら自分たちでつくろうと思えるようになりました。バングラデシュでも、アースデイ東京でも、猪苗代でも。いまわたしがほしいと思っている場も、ないならつくっていこうって気持ちが大きいです。

─── 「ないなら、つくる」。言うのは簡単だけど、つくって続けるのはとっても大変ですよね?
そうですね……森のようちえんを始めて2年目のときに、運営メンバーのライフスタイルが変化して、6組中3組が活動から離れました。残ったうちの1人のメンバーの運営に対する不満が溜まってしまい、爆発してしまったことがありました。その頃はさすがに凹みました。今思えば、自分もカレーのことを始めたりで、ようちえんの活動に集中できていなくて、コミュニケーション不足だったんですね。最終的にはまた参加してくれて子どもたち同士が楽しそうに遊んでいる姿をみて、これまで積み重ねた時間を振り返ったら、お互いの気持ちも落ち着かせることができました。

─── なるほど。大変なときに、サポートしてくれるのはどんな人たちですか?
夫のサポートはもちろんですが、義父母も懐が深いなって思います。

夫の祖父がやりたいことに自由に生きている人なので、家族のなかにそういう人がいたことで免疫力があるのかもしれませんね(笑)。

夫は震災後に実家の農業を継いだ当初は義父とぶつかり合うこともあったそうです。でも、体験イベントに子どもたちや若者が集まる様子を見ているうちに、何か新しいことを始めるときも、自分たちで考えた上でやってるんだろうと、信頼してくれるようになりました。地域の人たちも、森のようちえんに使わなくなったおもちゃを持ってきてくれたり、近所のおばあちゃんが家にツバメの巣が出来たから、子どもたちに見せてあげたいと声をかけにきてくれたり。

─── 森のようちえんは地元の人たちにも、見守られているんですね。
そうですね。お年寄りたちからしたら、私たちが森のようちえんでやっていることって、子どもの頃にやっていた懐かしいことばかりなんです。野山をかけ巡ったり、家にある材料でおやつをみんなで手作りしたり。そういう点では、多世代でかかわれる余白があるなと思っています。お年寄りのための休憩スペースもつくって、ゆるやかに関われる多世代交流ができていますね。地元の人たちに一歩ひかれない環境づくりを大事にしています。

一方で地域の受け皿として、「開ききる」ということには勇気がいりました。コロナ禍で気づいたことは、なにより信頼関係が大事だなということでした。いろんな人が訪れることができる場にしたいけど、リスクを考えると、地元に見守られているぶん怖さと責任もあります。いま来ている人たちとの信頼関係を大切にしているからこそ、活動できているんだと思っています。

─── すごく大事なことですね。
おかげで、困った時の駆け込み寺のような場所にもなっています。車で1時間ほどの場所から通う親子さんがいるんですが、地元の保育園と合わず、のびのび子どもたち同士遊ばせたいという想いで、週1〜2回わざわざ来てくれています。猪苗代町の役場でも、事情があって町内のこども園に入れない人などに、森のようちえんの取り組みを紹介してくださっています。小さな町なので、行政がやれることに限界があるなかで、民間が補える部分もあると思っています。

─── 参加しているお母さんたちの様子はどうですか?
大人はできる限り見守って、子どもたちがどう思うかを大事にしています。信頼関係があるから、他人の子どもを叱ったりすることも。お母さん自身も自分を発揮してやってみたいと思っていたことができたりしています。もちろん、全部が全部うまくできるわけではないですが、何もかもうまくやろうとすること自体がおかしいんじゃないかって思えるようになりました。

─── 森のようちえんで子どもたちと過ごす時間が、お母さんたち自身も成長する機会なんですね。
はい。お母さんが周囲に「任せられる」ようになっていくことも、大きな成長だなって。子どもの前だと、どうしてもお母さんという生き物が反応しちゃって、自分でなんとかしなきゃって思うんですが、森のようちえんにいるときは、できるときにできる人ができることを、「お互いさま」と思って、子どものやりたいようにやらせてあげることができています。自然豊かなこの場所なら、子どもたちの「やりたい」を十分に解放させてあげられますしね。

─── これから美香さんがチャレンジしたいことはありますか?
いまやっていることの延長線上で、子どもを軸にして地域のみんなの居場所となる拠点づくりをしたいと思っています。

私自身、嫁いで来た当初は、友達ゼロ、子どもいない、職場に同世代もいなかったので、地域のなかでつながりをつくることにとても苦労しました。でも、田舎ってチャレンジを始めてみたらす、誰もやったことがないからこそ、すぐその取り組みの先駆者になれちゃうんです! 気軽に地域の人たちが集い合う場をつくることで、私自身がそうだったように、地域の人たちの「やりたい」のチャレンジの場になったらいいですね。そのために、2〜3年のうちには事業を土台にして、ビジネスになりづらいものも積み重ねたいと考えています。

地域を見渡すと、やりたいことができていない大人が多いと感じています。やりたいことをやれる見本を地域でもつくりたいんです。これまでの活動はみんな自主的な活動で収入にはならなかったけれど、良い場づくりを行うことはできました。その一方で、続けていくためにはやはり資金面は大きなハードルとなっています。拠点をつくることそのものも、お金がかかりますしね。時間はかかると思いますが、少しずつみんなで手を携えて、積み重ねていきたいです。

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土屋美香
東京都出身、福島県猪苗代町在住。国内外の福祉について学び、児童館や学童クラブで勤務の後、青年海外協力隊として2年間バングラデシュへ。帰国後、地球のことを考えるイベント「アースデイ東京」の運営事務局を経て、猪苗代町の農家に嫁ぎ、「森のようちえん こめらっこ」を立ち上げる。現在は、バングラカレー屋としてもイベント出店を通して修行中。

● 森のようちえんこめらっこ https://komerakko.webnode.jp/
●のうのば https://www.facebook.com/nounoba/

インタビュー日 2021年1月25日
取材・文・写真(注記以外) 鎌田千瑛美

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