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研究が縁で福島に暮らして11年。人間らしくなった自分が、前よりも好き
辺見珠美
一般社団法人とみおかプラス/川内盛り上げっ課
福島 富岡
波瀾万丈な人生。それでも生きている。
─── その後、数年の間に、川内村からいわき市、そして今の職場がある富岡町に移住されていますね。
はい、実は2014年頃から心身の調子が悪くなってきて……。
自分でも気がついていなかったのですが、私は双極性障害を持っていたんです。当時は躁状態で、忙しく動きすぎて心のバランスを崩していて。実際、その頃の記憶が曖昧なんです。
そして躁の後、2016年に鬱になってしまい、今度は、誰とも連絡が取れなくなってしまいました。人と会うのも、電話を取るのも怖くなったんです。
周囲も心配してくれて、一人暮らしをさせておくのは危険だと、当時付き合っていた彼と結婚し、一時いわき市に移り住んだんです。
─── そうだったのですね……。
2018年の半ばまで鬱状態で、その後また躁状態に。カフェや居酒屋で働いたり、色々とイベントを始めたりと多動状態になって、夫のことも困らせてしまって……。結局、2020年に別居することになりました。
双葉郡の総合インフォメーションセンター「ふたばいんふぉ」での仕事を始めていたこともあり、別居するなら双葉郡に帰って来ようと思い、川内村の友人に相談したところ、富岡町にある親戚の家を紹介されたのをきっかけに、富岡町で暮らし始めました。
─── 現在は「とみおかプラス」で働きながら、子ども食堂を開催されているとか。体調は、少し落ち着きましたか?
そうですね。友人家族が隣に住んでいるんですけれど、寂しい時は一緒にご飯を食べたり、困ったときは甘えたりさせてもらっています。その友達と一緒に子ども食堂もやっていて。食堂を通して子どもたちとのつながりだけでなく、親御さんたち同士のつながりが生まれるのを見るのにもやりがいを感じます。鬱の時は人と会うのが怖くなってしまったけれど、私はやっぱり人と会うのが好きなんですよね。
いろんな活動を通して人と出逢いながら、少しずつ助けてもらったり、いい意味で依存できる先を少しずつ増やして、人に頼る練習をしている感じです。
─── 福島で11年暮らして、ご自身が感じる一番の変化は何ですか?
人間らしくなったあ、と思います。私は、幼い時から人に頼れない性格で、一人で抱え込む傾向があったんです。東京にいた時は、自分が勉強や仕事を頑張って、お金を稼いで結果を出すということに意味があると思っていました。
でも、福島に来たらそうじゃなくて、本当にたくさんの人に助けてもらったし、地域や人とのつながりが何より大切なんだと気づけました。病気にもなってしまったし、今でもダメダメなところもたくさんあるけれど、それでもいいのかな、と思えるようにもなった。
今の私は、これまで出会った人のおかげで成り立っているんだと思えるようになったんです。だから、福島の人たちのおかげで、私は前よりもずっと生きていていいんだなと思えるようになった。そして以前より社会全体のことに目を向けられるようになったと思います。
今後は、仕事とは別に個人で「きゃべつの葉っぱ」というイベントを開催していて。障がいや生きづらさを抱えた人たちの居場所づくりができたらと思っています。実際、それは自分にとって必要な場所でもある。
原子力を勉強していた頃とは、全く違う私だけど、こんなふうに、変わっていけていることが一番大きくて、嬉しい変化だと思っています。
- 辺見珠美
- 1989年、東京生まれ。大学時代、原子力を専門に学ぶ。東日本大震災後、研究室での放射線測定ボランティアを経て、2012年に川内村の福島大学のサテライトセンター職員として移住。放射線量測定や、放射能をはじめとする生活相談の仕事を行う。その後、いわき市を経て富岡町に移り、双葉郡のインフォメーションセンター「ふたばいんふぉ」のスタッフとして双葉郡の情報発信に取り組む。現在は、富岡町にあるまちづくり会社「一般社団法人とみおかプラス」の職員として、移住相談窓口を担当。個人的には子ども食堂やイベントなどを通して移住者や帰還者を含めた地域の方々がつながる活動を行なっている。
一般社団法人とみおかプラス https://tomioka-plus.or.jp/
川内盛り上げっ課 https://www.facebook.com/kawauchimoriage/
インタビュー日 2022年5月15日
取材・文 玉居子泰子
写真 鎌田千瑛美
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