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勝負の世界を諦めて出会った農村の魅力。食で命を支える仕事に迷いも消えた
佐藤裕美
有限会社 伊豆沼農産 取締役
宮城 登米
伊豆沼の素晴らしい景色をもっと紹介していきたい
─── ほとんど未経験の農業関連の仕事につき、ローカルの魅力を県外に伝え、地元の人たちとも仲良くされていて。きっと佐藤さんのお人柄や心意気を周囲が感じているんですね。
いえ、私はそんなに心が広い方じゃないと思います(笑)。この10年、つらいなと感じることがなかったわけじゃないんです。でも、落ち込んでも会社のみんなや地域の人など寄り添ってくれる存在がいて、私も困っている人がいればなんとか自分なりに寄り添う。あとは、私は負けず嫌いなところもあって。昔は、プロの女流棋士を目指していたんですよ。
─── え! 将棋ですか?
ええ。父が将棋好きだったんです。父と遊んでもらいたくて覚えて。負けると悔しいから将棋道場に行くようになって、10歳からは本格的に女流棋士になるための養成機関に入っていたんです。18歳まではプロになることしか考えてなかったですね。競争が激しい世界で、自分にも厳しく技術を高めなくちゃいけない。頑張ることの意味を教えてもらったし、でもどれだけ頑張っても報われないこともあるということを勝負の世界で教えてもらいました。
プロを諦めたとき、全く違うことをしようと、起業家を育てる新設の大学に入り、そこで持続可能な観光を教える恩師に出会ったんです。
─── そして農業やローカルの自然の魅力に気づいたんですね。
プロを断念してかなり精神的に落ち込んでいたから、美しい自然に癒され救われた部分もありましたね。ここで働いて10年がすぎた今気付くのは、都会で働いていた頃とは違って、どんなに仕事が大変でもストレスはほとんどなくなって。心の揺らぎがなくなりましたね。
─── それはなぜですか?
一人じゃない、ということが大きいと思います。つい先日も大きな地震があり(令和4年3月16日23時頃に起きた福島県沖で起きた最大震度6強の地震)、弊社の施設も大きな損傷を受けました。それでもみんなで協力して片付けていると、東京の小さな部屋で孤独で怯えていたのとは違って、孤独感がないんです。それに食べる物には困らないという強さもあります。みんな自分達で作って育てて保存して、分け合っていますからね。そういう人たちに囲まれて過ごしているから、何が起こっても大丈夫という気持ちでいられるんだと思います。
─── 本当にいい出会いがあって、登米や伊豆沼を愛していらっしゃるんですね。最後に今後の目標をお聞かせください。
登米市や伊豆沼って、本当に美しくて、美味しいものが作られていて、かっこいい人たちに囲まれている場所。私はよそから来たからこそ、その魅力をひしひしと感じています。だから、今後も、そんな素晴らしい景色を多くの人に紹介していきたいということだけですね。
私自身もっと地域のことを学ぼうと、ここ数年、地域の人や文化、食について調べ記録したり、食を通したイベントを開催したりということにも挑戦しています。
ここでの仕事に終わりはないし、まだまだやりたいことがいっぱいあります。農村自体がもっと元気になるように、みんなが生きがいを感じられる仕組みも作りたいですし、活動の中で培ったノウハウを同じ課題をもつ地域にも共有していけたらとも思っています。
- 佐藤裕美
- 1982年秋田市生まれ、現在、宮城県栗原市在住。小学生から女流棋士を目指しプロの養成機関で研鑽を積むが、18歳の時に自らその夢を諦めることを決断。全く違うことをしてみようと、大学で事業構想を学ぶ中でグリーンツーリズムやエコツーリズムの講義を受け、農村や地域振興に興味を持つ。大学卒業後、広告代理店に就職したものの、震災時にみた東京での暮らしの脆弱さに、大学時代に触れた農の世界に改めて飛び込むことを決める。2012年1月に登米市の農業生産法人(有)伊豆沼農産に企画職として転職。2017年より取締役を務める。2020年に結婚、お相手もたまたま佐藤さん。ドライブして海や山の風景を見に行くのが気分転換。
伊豆沼農産 https://www.izunuma.co.jp/
インタビュー日 2022年3月24日
取材・文 玉居子泰子
写真 佐竹歩美
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