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動き始めれば、何か変わる。いつか、ここならではのチーズを作れたら

早坂良枝

チーズ工房 STUDIOどどいち
宮城 大崎

物心ついた時から見てきた農の暮らし、家族が働く風景が根っこに

─── そこで、チーズ工房を起業したんですね。資金や手続きなどはどうしたんですか?

起業の手続きは、大崎で起業支援をしているスリーデイズさんにも相談しました。資金は実家の家族に話して、建物にかかった費用の大半を出してもらい、いま、少しずつ返しているところです。中の設備は知り合いのところで使っていなかった中古のものを譲っていただいたり。そうして、ようやく建物ができて製造許可が下りたのが2016年のことでした。そこでイベントがないときは週3回、イベントがあればさらに稼働日を増やす、というペースでチーズを作れるようになりました。

─── チーズのことでアドバイスをくれたり、サポートしてくれる人はいましたか?

アドバイスというか、私の中で大きい出来事があって。工房が完成する前のことですが、以前にチーズの研修で出会った人に、今度こんなのあるから来てみない?って、栃木にチーズ工房持っている人たちが集まる年1回の合同研修会に誘ってもらったんです。参加してみたら、そこの人たちにすごく刺激されました。

チーズ生産者と地域の飲食店ががっちり手を組んでイベントを企画したり、いろんな工房のいろんな種類のチーズを使ってお店でメニューとして出したり。その時は那須黒磯のチャウスというお店で、お料理のシェア会だったんですけど、なんかもう飲み会も3次会くらいまであって、とにかく参加者がみんな熱いんです。何に熱いって、地域を盛り上げるというか、自分たちのチーズが売れるというのも大事だけれど、それをきっかけに地域を元気にしようっていう熱がチーズ生産者も飲食店もすごくて。

毎年、その研修会の時に合わせてフランスからチーズの指導者を招いて、各工房を回って、設備や作り方やチーズの味を見てもらって、アドバイスをしてもらう。そういうつながりができていて、そこの地域で生産するチーズのレベルも高いんですよね。すごくいいなあって思いました。

地産にこだわりたい、ここならではのものを作りたいていう気持ちはもともと私も強かったんです。チーズ工房の名前「どどいち」も、工房のあるここ、「田尻 百々一」の地名からとりました。

そして実際、工房を立ち上げて続けていくとなると、作ったものを買ってくれるお客さんがあってのことなのですが、大々的に宣伝したわけでもなく、販路を広げる上で頼りになったのは飲食店のシェフや、地域の方の口コミだったりしました。

近隣の飲食店さんの中で仲の良いネットワークがあって、そこからつなげていただいたところが結構多い。特に、生産者の顔が見えるをコンセプトに、「Farm to Table 畑からお皿の上に」を意識してくれるシェフ、生産者に話を聞いてくれるシェフ。そうしたシェフたちに支えられています。

─── そうだ、工房ができたあと、良枝さんは結婚して、お子さんも生まれたんですよね。

はい。2018年4月に結婚しました、相手もやはり地元の農家の人で、今、結婚を機にリフォームしてもらった相手の実家に同居しています。同居だと多分、程よい線引きっていうのがすごく大事で。リフォームの時にどういう風にしたいかちゃんと聞いてもらえたので、きちんと壁で隔てた自分たちのスペースを作って、中に小さなキッチンも入れました。大工さんにはちゃんと伝わるように段ボール紙で3D模型を作ってプレゼンして(笑)。独立した空間があるっていうのが、本当に良いです。

その後、2020年に娘が生まれました。ちょうど最近娘が7か月になり、チーズ工房隣の自分の実家で娘を見てもらいながら週1回でチーズづくりを再開しています。

─── そうですか。チーズづくりも自分のペースで長く続けていけそうですね。

私の実家は米と野菜と仔牛の繁殖をしているんですが、家族が働いてきた姿を間近に見てきたっていうのは、結構自分の中では大きいんじゃないかなと思うんです。物心ついた時からずーっと見てきた、この農村の風景みたいなもの、ハサ掛けして天日干ししているお米の風景とかすごく大事で。小さい頃から土いじりも好きだし、中学生の頃から高校は農業高校に行こうって決めていたし、ずっと、農とつながる選択しかしてきていないというか。

なんだろうな、人と同じものがあまり好きじゃないといったら変ですけど、みんな同じ、みたいなのが苦手なんですよ。

日本の牛乳を使っても菌は外国から買ったりするので何だかなあと思うことがあったんですが、ちょうど工房を始める頃に、東京の青梅で地場の菌や微生物を元種づくりに使ってチーズを作っている人がいると知って、研修を受けに行ったんです。それが、自分の目指すところに近かった。 そうだ、私がやりたいのは地産だってすごくしっくりきて。大崎にはすごくいい日本酒もあるし、そういう環境をいかしていつか、自分の納得したものを作れるようになりたいなって思います。

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早坂良枝
1985年生まれ、宮城県大崎市出身。地元の農業高校を経て、北海道の酪農学園大学在学時にチーズづくりに出会う。東日本大震災直前にUターンし、郵便局での仕事をしながら「だんだんチーズの仕事の割合を増やし」、念願のチーズ工房STUDIOどどいちを立ち上げる。2018年結婚、一女の母。身体を動かすこと、小さなDIYが好き。 家の中をいかに暮らしやすくするかを実践するのが最近の趣味。

インタビュー日 2020年12月16日
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美

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