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この感覚を信じて。暮らしの中の養蚕とシルクの文化を継承したい。
阿部倫子
「SILKWa(しるくわ)」主宰/ライター
宮城 丸森
大切にされてきた暮らしの文化を楽しんでつなぎたい
─── シルクの活動で、倫子さんを駆り立てている原動力って、何なんでしょう。
やっぱり人の魅力なのかな。私、感覚で生きてる人間なのでうまく言葉にできないんですが、ひたむきな人の、目に見えない魅力というか。養蚕農家さんに、どうして続けてるんですかって聞くと、「わかんねな、目の前に道具があると、なんか体が動いちゃうんだよ」というような答えが返ってきたことがあって、体に染みついてる感覚が素敵だなと。それから、手。お蚕さんに触れる時の優しい手つきだとか、糸を取ったり、機織りをしたり、みなさんの優しさ溢れる手仕事をしている手がすごく好きです。
製糸工場からできる糸を使った立派な着物よりも、地域にあるものを自分の暮らしに生かす、循環する物作りに興味があるんです。出荷できない繭で自家用に紡いだ糸から作ったおばあちゃんたちの着物を見せてもらったことがあるんですけど、すごく素敵で。
うまく伝えられないんですけど、いつも、そういう素朴なもの、大切にされてきた文化や人の魅力に惹かれてしまいます。
─── 長い時間かけて、人々のそういう営みが土地の文化になってきたんですね。
丸森には、お蚕さまを荒らすネズミを退治してくれるというので「猫神様」の碑があったりします。そういう民俗的なところも興味深いです。
身の丈以上のことを構想して思いつめてしまっていた時期もあったけど、最近は、自分にできることを地道にやっていけばいいのかなって。
自分自身が楽しむことでみなさんもより興味を持ってくれるように感じています。私が丸森に通い始めたのも、地域のみなさんがすごくキラキラして見えたから。田舎に住むって大変なこと不便なこともたくさんあるけど、それすら楽しんでる感があったというか。
あとは、何事もタイミングがあるなと、今は思っているところです。
─── そうですね、この間にCOVID-19もありましたしね。
タイミングが来るときに備えるのも大事。それを感じ取れる自分の余裕、余白も残しておかないと、そのまま通り過ぎちゃったり、それを受け止められないよなと思っています。今まで、どうしようこうしようっていっぱいになることもあったけど、少し緩く構えた方が、この先、前に進んでいけるかもしれないですよね。
- 阿部倫子
- あべみちこ 1979年、石巻市出身。高校時代からは名取市に。大学卒業後、仙台の広告代理店で営業職につくものの、祖母の教えを思い出し退職。転々とするが、東北の良さに気づき故郷に戻ってきたところで丸森町にある里山暮らしを体験する宿に出会い、丸森の人々や風土、文化に惹かれるまま、通うようになる。旧観光物産協会の仕事に就き、そのまま移住。東日本大震災で石巻にある母方の実家のたらこ屋マルイチ高橋商店が被害を受け、一旦丸森を離れ、叔母のもと仙台の「たらこcafé」で働く。2016年、丸森町での地域おこし協力隊に着任。任期中に、丸森の養蚕・シルク文化の現状を知り、その背景や根っこにある技術・文化・生業に触れる機会を得て、地域おこし協力隊を卒業するにあたり「SILKNa(しるくわ)」を立ち上げる。また、観光案内所での情報発信のほか、(一社)たね屋ビレッジのメンバーとして丸森の文化交流拠点を兼ねたシェアハウスにも携わる。
SILKWa(しるくわ) https://silkwa.jp/
インタビュー日 2023年4月13日
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美
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