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「あの時、しんどかったよね」背負った過去を手放して、自分らしく生きる
鎌田千瑛美
コミュニティ・コーディネーター/パートナーシップ・コンサルタント
福島×鎌倉
こだわりを脱いだ今、肩の力を抜いて故郷を見つめられる
─── 震災直後にUターンをして、そこから5年以上復興の仕事に携わって。本当に頑張ってきた疲れが出たのかもしれませんね。
そうでしょうか。結婚して福島を離れて、確かにどこか自由になったところもありました。と言っても、もちろん福島に関わらないということではなく、少し離れたところから自分なりに関わろうという気持ちになりました。
これまで福島に対して「自分がやらなきゃ」「なんとかしなきゃ」という気負いのような使命感が大きかったのが、そこまで無理しなくてもいい、できること、やりたいと思うことをやろうというように変化しましたね。
2019年10月に福島と宮城の県境にある阿武隈川が氾濫して、当時はさまざまなエリアで水害が起きたんです。すでに私は鎌倉に暮らしていましたが、宮城県の丸森町で暮らす友人たちがボランティアセンターを立ち上げると言うので、サポートさせてもらいました。その後も、鎌倉と丸森を行ったり来たりしながら、コミュニティスペースの立ち上げを手伝ったり、夜はスナックのママをしながら(笑)、みんなの話し相手になったりしていました。改めて、人と向き合うこと、つながり合うことが好きなんだなって再認識できる時間でしたね。
─── いま振り返って、故郷への気持ちはどのように変化されましたか?
福島から離れたことを「逃げた」と感じて自分を責めて、まだそこで頑張っている仲間を裏切ったように思っていたこともありましたが、今は違います。
外にいるからこそ見えるものもあるし、ともに活動してきた私だからこそ、相談できることもあるみたいです。
やっぱり震災発生直後から一生懸命頑張ってきた子たちが、だんだんバタバタと倒れたり、自分もそうだけど、頑張り続けられなくなった姿をたくさん見てきました。
「あの時、しんどかったよね。背負わなくてもいいことまで、背負おうとしていたね」というような気持ちを語り合ったり、なんでそんなにしんどかったのか、ということを問いあったりもしています。
─── 故郷を愛しているからこそ、想いを負って頑張ってたけど、みんな当然傷ついていたんですものね。
ここ数年くらいですかね。そういう「つらかった」ということを一緒に活動してきた子たちが、みんな本音で言えるようになってきたと思います。仲間と自分を一番大切に、愛してあげることがやっぱり大切なんだと腑に落ちました。
自分を大切にしていけば、周りの人がとか、福島だとか、社会をなんとか守ろうと思考で動くんじゃなくて、もっと深い部分から行動して体現できるようになるんだと思っています。
私は福島を離れることで、すごく客観的になれました。何かを成し遂げなくてもいい、何かを頑張っていなくてもいい。誰にも知られていない場所に身を置くことで、本当の意味で自分の人生を生きられるようになったのだと思います。
─── 現在は、家族やパートナーシップ、愛や性のことについての発信やコンサルティングを行なわれているとか。
はい。女性たちが本音で話し合う活動をしていた頃から、のべ300人以上のお悩みをさまざまな形で聞かせてもらっていて。家族やパートナーシップには、私自身も悩んだ体験から、ずっと問題意識を持っていました。家族や愛、性のことってすごくセンシティブで話しづらいけど、大事なことなんですよね。悩んでいても誰にも言えなかったり、男女間でも意識の違いがあったり。
これまでのような家族のあり方じゃなくて、いろんな家族、男女のあり方を探っていけたらと、今、活動を始めたところです。「自分らしく生きたい」という想いから、本当に、全部つながっているんだなと思っています。
- 鎌田千瑛美
- 1985年生まれ、福島県南相馬市出身。大学進学と共に上京。2011年3月、勤務していた東京のIT企業を退職し復興支援活動を開始。 2011年12月に福島へUターンし、福島県の中間支援組織のコーディネーターとしてさまざまな復興プロジェクトに携わる。 同時に、若い女性たちの対話の場としてコミュニティ団体「peach heart」を立ち上げ、共同代表となる。
2014年7月以降、古民家修復プロジェクトを軸に地域に根ざした衣食住の文化や、ていねいな「くらし」を学ぶワークショップを主催。その後、高校の家庭科教員などを経て、結婚を機に関東に移り住む。現在はフリーランスのコミュニティ・コーディネーターとしての活動を継続する一方、家族や愛、性にまつわるコンサルティングをおこなう「パートナーシップ・コンサルタント」として活動を始めたところ。
https://line.me/R/ti/p/@355peypw
インタビュー日 2022年3月30日
取材・文 玉居子泰子
写真 福井隆也
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