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どこに住んでも地球人。美味しいものと綺麗な景色、素朴なことが実は楽しい

佐藤美穂子

農家民宿・カフェ 音水小屋/ふるさとの家保存会会長
青森 五戸

地域にいてもグローバル、地球人の気持ちで

─── 今ではいろんな地域活動もされてますよね。倉石温泉の隣の茅葺古民家「ふるさとの家」の保存会会長もされていると聞きましたが?

そうですね、地域にもともと活動があったおかげで入れてもらえてる感じです。私が温泉に勤めてる時に、温泉とふるさとの家がセットで町の指定管理施設だったんですよ。倉石温泉にふるさとの家の鍵があったので、ときどき開けては見回りみたいなこともしていたんですけど、あまり活用されてなくて。ついに町が指定管理を外して、ただ「あるだけ」の存在になってしまったんですよね。それを今は、ふるさとの家をなんとかしようって集まった私たち「ふるさとの家保存会」で無償で借りて、全部ボランティアでやってます。

保存会のメンバーは10人くらいですね。UターンやIターンの移住者や、役場の若手職員もいますし、縁のある八戸の人たちもいます。一番最初にふるさとの家を活用するイベントをしてくれたのは、八戸にUターンして移住コーディネーターをしていた風間一恵さんでした。

施設修繕でお金がかかる工事は持ち主の町がやってくれるんですけど、日々のメンテナンス、例えば備品の補充や電気水道維持費は保存会が受け持っているので、時々イベントをしてカンパを集めてなんとか維持してるっていう状態です。でもこのメンバーとは同じ感覚で話がしやすいし、活動自体楽しんでやれてます。歩いてすぐ行けるし、泊まりに来た子どもらも連れて行ってあげられる(笑)。

── いい仲間ができて、楽しく活動できるのは良いですね。さっきの温泉での話を聞くとちょっと息苦しいところもあるように感じたんですが。

まあ、地域の閉塞性みたいなのは確かにあるし、意見を言う人が本当に少ないので、「都会の人は言うことが違いますね」ってきりがないぐらい言われました。「みなさんそうなんで、ご理解ください」みたいな決まり文句が来ると、だんだん億劫になってきて。

でもね、どこに住んでても、地球人なんやな! と思って、常に解放感を持っていたいなっていうか、地域に軸を置きながらもグローバルだって思うようにしてます。地域課題もそうやけど、地球規模で見たらどうなの? って考えるとか、読書して気分転換するとか、そうやって、すり替えて考えていくのは大事かなーと。なんかなーとかたまに思うことあっても、まあ、別にここでだけの話じゃない。閉じこもってうつうつするといらんこと色々考えて、ぐるぐる思考しちゃうのが良くないですよね。

─── 美穂子さんは、五戸暮らしのどこが一番気に入っていますか?

目の前に見える風景が綺麗だなっていうところかな。なんかこの、景色があんまり変わらないって素晴らしいなと思っていて。大事にしてきて、何十年も多分このままだったと思うんです。

自分の実家が大阪の中でも中心街で、すごい変化が激しいとこなんですよ。昔の駄菓子屋さんがなくなるし、新しく電車ができたら人口も増えすぎて。自分の母校の小学校が教室足らんで、校舎増築して運動場も狭くなってるの見ると、いやもうこんなに人増えてどうすんねやろって思う。災害とか起きた時に大変やろなとか思いますよ。その点、山とか川とかはよほど手を加えへん限りは全然変わらない、荒れないように地域みんなで守る、すごいなって私は思います。それに、楽しい。期待しないで来たから余計に感じるのかな、多分、東京とか大阪におるより楽しいと思います。実家帰ってもあんまり面白くないなーと思うんですよね。ただ、お金だけ使ってる感じ。地元の友達と喋るのは面白いんですけど、実家帰る楽しみってそれぐらいかな。

─── そうなんですね、じゃあ、ここでの楽しさの中身って何でしょう?

うーん、一つはやっぱ美味しいもん食べられることかな。青森に来て、りんごの美味しさとかほんまにすごいですよ。野菜も美味しい。ズッキーニ美味しいって、泊まりに来た子たちにもすごい言われます。子どもたち、そんな感動するんかなというくらい喜んでる。ポキッと取ってきて、ただ焼いて塩を振るだけです。それが美味しい。 あと、なんか課題がいっぱいあるから、それをなんとかしなあかんなっていう気持ちが強いのかな。それこそ、20年後どうなんのかな、みたいな気持ちが生まれてくる。古民家も誰もやらへんのやったら、なんかしなあかんなとか。自分がすることがいっぱいあるんですね、ここにおると。そういうのが楽しいんかもしれないです。

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佐藤美穂子
1982年大阪市生まれ。学生時代に中国で体験した自給自足的な農村の生活の心地よさが忘れられず、いつか農のある暮らしをと思うようになる。東京で結婚、子育てを始め、2016年に、夫の父の実家である青森県五戸町に念願の移住を果たす。2019年に農家民宿、2020年にカフェを開業し、弁当販売も行う。農家として独立した夫の作る自然栽培の野菜を使っている。新幹線に乗れば自分たちだけで泊まりに来られると、首都圏での息子の友達をはじめとした子どもたちがリピーターに。近くにある茅葺き屋根の古民家「ふるさとの家」の保存会会長もつとめ、ボランティアで維持管理活動とイベント企画も行っている。

インタビュー日 2023年5月25日
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美

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