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高校生だって、気仙沼のために何か役に立ちたい。その思いが自分を動かした

小野寺真希

コミュニティデザイナー/荒屋デザイン代表/合同会社moyai
宮城・気仙沼

まちづくりはハード面だけが立派でもダメ。大事なのはそこに暮らす人の心を動かすこと

─── 気仙沼のまちづくりに携わるようになったきっかけはなんだったんですか?

大学4年生のときに、ちょうどタイミングよく、「気仙沼まち大学」というところが、地域おこし協力隊を募集していたんです。気仙沼まち大学は、「市民が主役のまちづくり」をキャッチコピーに、市民が交流できるシェアスペースの運用や様々なイベントの企画・開催などをしています。まちを活性化するための活動・・・・・・、あ、これってまさに私がやりたかったことだ!と飛びつき、大学の勉強を続けながら、気仙沼の地域おこし協力隊の仕事に携わるようになりました。主な仕事は、会員制のシェアスペースの運営管理です。まずは市民にその存在を知ってもらおうと、様々なイベントや講演を企画しました。はじめは利用者が少なかったのですが、いろいろとアイデアを出し合い、告知にも力を入れるようになると、少しずつ認知され、会員数も増えていきました。

─── 協力隊の仕事をしながら、個人会社と合同会社も立ち上げたそうですね。

協力隊は最長3年やることができ、私は大学4年生のときから24歳まで携わっていました。協力隊のメンバーにはいろいろな仕事を経験している人達がいました。一方、私は新卒でそのまま協力隊として働くことになったので、「一度も社会を経験していないのに、協力隊ってどうなの?」とまわりから言われることもありました。別にそれで凹んだりはしなかったけれど、自分のキャリアの積み方を考えるようになりましたね。

デザイン事務所を始めたのは、大学でグラフィックデザインの勉強も少しやっていたので、イベントの告知などでチラシを作ったりしているうちに、仕事としてデザインをお願いされるようになったからです。気仙沼では若い人に仕事をどんどん任せてくれます。

合同会社moyaiは、気仙沼出身の3人で始めたコミュニティデザインの会社です。一番思い出に残っているプロジェクトは、気仙沼市内にある八日町商店街で実施した「八日町みちくさプロジェクト」です。震災後、急激な人口減少、少子高齢化が進み、商店街の活気が失われつつある中、古き良き町並みや建物を残しつつ、新しい時代の町づくりを考えていこうと、商店街の人達だけでなく、地元の住人やUターン、Iターンをしてきた若い人達も一緒に意見を交わし、プロジェクトを進めていきました。平日の昼間しか使われていない駐車場と商店街にあるお店の壁を使った映画のイベントや、海苔屋さんの前の空きスペースでそのお店の海苔を使ったおむすび屋台を開いたりと、様々なアイデアが出て、地域の一体感を感じたプロジェクトでした。

─── すごい、活動的ですね。

私は気仙沼で生まれ育ったので、この町のいいところも嫌なところも知っています。一方で、若い世代として、何か新しいことを始めたいというUターン、Iターンの気持ちも理解できます。そんな両方の感覚を持った私だからできることがある。この町で私がやるべきことはまだまだあると思っています。

中学3年生で震災を経験し、町が大変だったときに、私は何もできませんでした。その後ろめたさはずっとあって、この町のために何か役に立ちたいという気持ちはどんどん大きくなっていきました。今はそれを少しずつ形にしているところです。

─── そうですね。東日本大震災から10年、真希さんが学生から大人になっていく時期と重なりましたが、振り返って思うことはありますか?

震災から10年の節目に、底上げYouthの活動をサポートしてくれいた「認定NPO法人底上げ」のこれまでの活動をオンラインで展示するというウェブのお仕事をいただきました。底上げYouthは、自分の人生の分岐点になった場所。そこで、自分で考えて、行動することの大切さを学びました。その経験があったから、今の自分があると思っています。卒業して6年が経ちますが、底上げの人達は今でも私のことを気にかけてくれて、その安心感が自分の背中を押してくれます。そんな私にとってかけがえのない存在である底上げの大事な仕事を任せていただき、とても嬉しかったですね。

震災から10年が経ち、気仙沼もだいぶ整備され、新しい町に生まれ変わりました。けれども、いくらハード面が充実しても、そこに暮らす人達が幸せを感じなければ、まちづくりは成功しているとはいえません。大事なのは、「ここに暮らしたい」「ここで何かをやってみたい」と、人の心を動かせるかどうかです。

─── 最後にローカルに暮らす、または暮らしたいと思っている若い女性に伝えたいことがあれば。

ローカルで何かをやると、メディアなどで取り上げられることが多いのですが、そうすると、自分も何か結果を出さなければ!と肩に力が入ってしまいがちです。でも、私は「何かをやったという結果」よりも、「やろうと行動を起こすまでのプロセス」の方が大事なことだと思っています。ローカルで活躍する人はたくさんいて、ときに眩しく感じることもあるかもしれませんが、すごいことをやらなきゃ!と思わないで、まずは自分のやりたいことをやってみたらいい。焦る必要はありません。

私もやりたいことはいろいろあるけれど、実際に形になったものはまだほんの少しです。これからも自分の故郷である気仙沼のコミュニティデザインを中心に、東北から全国へとフィールドを広げていけたらいいなと思っています。

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小野寺真希
1995年生まれ。宮城県気仙沼市出身。中学3年生のときに震災を経験する。高校3年生のときに、「底上げYouth」の町おこしプロジェクトに参加し、まちづくりに関心を持つ。山形県の東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科在学中の大学4年生のときから、「気仙沼まち大学」の地域おこし協力隊として、シェアスペース「スクエアシップ」の運営管理に3年間携わる。地域おこし協力隊をしながら、2017年に個人デザイン事務所荒屋デザイン、2018年にコミュニティデザインの合同会社moyaiを設立。現在は、気仙沼以外のまちづくりプロジェクトも行っている。趣味は落語、音楽を聴くこと。


●合同会社moyai  http://www.facebook.com/moyai.llc

インタビュー日 2021年5月6日
取材・構成・ライター 石渡真由美
写真 志田ももこ

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