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子どもたちが本来持つ「生きる力」が発揮される環境を作り続けていきたい

高浜菜奈子

つちのこ保育園園長
岩手 普代村

大人も一緒に成長しながら、続けていくこと

─── 子どもたちは毎日、どんな風に過ごしているんですか?

9時に集まって、輪になって話す朝の会をして、9時半ぐらいから自由遊びです。今日の自由遊びの時間は、土でお料理ごっこしたり、カタツムリを2時間ひたすら探していたり、木に登っていたりそれを見ていたりという感じ。野外には板を置いただけの滑り台やロープ程度はありますが、基本的に遊具やおもちゃは置いていません。はじめは「(乗って遊ぶ)車のおもちゃがない」って言ったりもするんですけど、結局、ないものはない。この間は子どもたち5人が竹の棒を2本持ってバスっていうことにして楽しそうに歩き回っていたんですけど、それって車のおもちゃがあったらたぶん出てこない発想だと思うんですよ。わざと遊具やおもちゃがない時間を作って、自分で作り出す時間、機会を作っています。11時半ぐらいからお片付けをして12時過ぎからお昼ごはんの給食。それで帰りの会をやって、一旦通常保育が終わるのが1時半くらい。そこからは延長保育をしていて、延長の子は家の中に入ってお昼寝しておやつを食べて、となります。

─── スタッフはどんな体制なんですか?

調理スタッフも入れて7人、それを毎日私も入れて3人のシフトで回しています。1年目の実績のおかげで、2年目からは地域おこし協力隊に来てもらえるようになりました。そのうち1人はこの夏に保育士資格を取得します。あと、今年4月にきてくれた協力隊のスタッフが30年近いキャリアのあるアメリカ人男性なんですよ! 幼児教育や森の学校の経験者で、力仕事もお願いできて本当に助かっています。この夏には協力隊のスタッフがもう1人入る予定です。

─── すごい、協力隊が3人も! 村といい関係性を築いているんですね

ありがたいことに、村長や村会議員の方々も、「村に教育の選択肢が増えるのは良いことだ」と、立ち上げ期から手厚くサポートしてくださいます。役場の政策推進室や住民福祉課、保健センターの方々にもお世話になっていますし、つちのこは認可外保育園ですが、普代村の子育て支援制度と国の制度を使えば通常保育は事実上無料になるんです。森のようちえんがあることで移住先候補に上がりやすくなるので、期待をかけていただいている面もあると思います。お子さんをつちのこ保育園に入れたいという方の移住支援をどうするか考えないといけないフェーズに来ていますね。

─── 今年で3年、上の娘さんが年少さんから年長さんになったところですね。がんばって続けて、仲間も増えて、道が開けてきたところでしょうか?

「継続すること」ってメモして貼ってます(笑)。周りからの認知は3年目でやっと、「なんかやってたよね」程度。あと2、3年したらもうちょっとは確固たるものになれるかもしれない。難しいことがあっても継続するっていうのはやっぱり地域では大事ですよね。

保育者として現場で難しいと感じることはまだまだたくさんあります。たとえば、喧嘩も子どもの育ちにはとても重要なことなので、できる限り介入しないで見守るという大体の方針はスタッフや保護者とも共有しているんですが、やっぱり細かいところでそれぞれが違う感覚を持っている。たとえば今日も、給食を盛ったお皿を取り合って喧嘩して泣いていたんですが、どう見守ってどのタイミングでどう介入するか……。日々話しながらすり合わせていく作業には、終わりがないですね、大事なことですが大変でもあります。多少のトラブルがあっても動じなくなったというか……耐性はついたのかもしれませんが、まだまだ、経験豊富な園長さんみたいには行かないです。

─── きっと、大人も一緒に学んで育っていくんですね。大人も成長する。

そうですね。子どもに教えられることは多いです。子どもって、生まれた瞬間から自分でおっぱいを探して飲むって、すごいですよね。子どもを産んだ時、生きていくために、自分を自分で育てていく力を持っている存在に見えたんですよ。生きることへの衝動というか、命の躍動みたいなものがある。だから、守ってあげるっていう気持ちももちろんあるんですけれど、それ以上に、自分で発するエネルギーとか、生きるに向かう力がうまく発揮される環境を作ることの方が、私にはしっくりきたんです。その実感が、私を森のようちえんに向かわせたんだと思います。カンボジアで感じた「生きる力」への羨ましさなんかを思うと、日本の教育環境が圧しつぶしてきたかもしれないものが、気にかかっていたんでしょうね。

それから、見学にいらっしゃる方に「アフリカの子どものようだ」とか「原始人のようだ」とよく言われるのですが、子どもたちが持つ根源的な「生きる力」がうごめいているからかなって思います。

─── 根源的な「生きる力」、ですか?

ヒトは、胎児期にお腹の中で、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、のカタチをたどるわけなんですが、誕生後もその時期に獲得した反射脳や情動脳を大事にすると良いと言われているんです。だから、幼児期の子どもたちには、新哺乳類が獲得した理性脳だけではなく、それこそ縄文人のように、土をこねたり、採集をしたり、そんなことをいっぱい経験できると良いなって思っています。だから、自然の恵みとともに地域の知恵を活かして「暮らすこと」が大事だなあと。

やっぱり生き物には本来「育つ力」があると信じているから、周りの人は、それを見守るんだと思います。義務教育のなかで学ぶことには限りがありますが、学び続ける力があれば、大人になってからも学んでいけますね。私も一進一退してますが、この場で育っていけたらいいなと思っています。子育ち・親育ちですね。

─── 今、お腹に3人目のお子さんがいるんですよね? ご自身の子育てもしばらく続きますね。

はい、実はもうすぐ産休に入ることになっていまして(笑)。先のことはまだぼんやりとしかわかりませんが、復帰してますます森のようちえんに打ち込むのは間違いないですね。生きる力が育つ環境づくり、これからも探求していきます。

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高浜菜奈子
1992年、青森県八戸市生まれ。将来は保育士か幼稚園教諭になりたいという夢を持つも、高校生の時に初めて行った海外で”児童労働”を直に感じたことをきっかけに、国際問題に関わる仕事に就きたいと国際法学科に進学。大学在学中1年間休学をし、認定NPO法人かものはしプロジェクトのカンボジア事務所でインターンシップを経験。帰国後(株)アースカラー/NPO法人地球のしごと大學に参画。趣味は、娘たちの観察とヒトの発達を多角的に考えること。地域づくりにおける教育の重要性を感じ、大人も子どももともに育つ「野外保育」の推進に取り組む。保育士、おむつなし育児アドバイザー。取材後、無事に男の子を出産し、現在、2女1男の母。

つちのこ保育園 https://www.tsuchinokohoikuen.com/

インタビュー日 2023年5月23日
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美

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