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あれから10年、「仲間と一緒にやりたい」と思うわたしがいる

佐藤美代子

助産師/まんまるママいわて代表理事
岩手・花巻

板林恵

で、あなた、やるの? やらないの?

─── 被災地支援のサロン活動から始まって、現在の産後ケア事業への転換はずいぶん大きな変化ですよね。何があったんですか?
まず、3年目のしんどさ(笑)。被災地の状況は変わらずまだまだ終わっていないのに、急に、支援金が集まらなくなりました。その頃、大企業がスポンサーになる案件がそこここにあったから、私もスポンサーさえ見つかれば、と思っていたんです。助成金に応募してはという話もあったけど、被災地のためという気持ちだけで動いていたからビジョンや計画を語ることができませんでした。いわて連携復興センターの葛巻さんが面倒がらずにお金も取らずに相談に乗ってくれて。葛巻さんが勧めてくれる研修や勉強会にはできる限り参加するようにしていたんですよね。

─── コミュニティ・オーガナイジング*にもそこで出会った?
そう、葛巻さんに勧められました。コミュニティ・オーガナイジングの最初のワークショップに行ったとき、みんなカタカナばっかり使って、薄いパソコンカタカタ叩いて。こういう人たちと親しくなれるとはとても思えませんでした(笑)。ただ、とにかくよく分からないけど、習ったことをやってみなきゃ! 団体を組織しなくちゃ! って帰ってきてからまんまるの中で会議をするようになったんですよね。すると、意見の違いとかも出てきて。

─── ビジョンを話したりとか?

はい、激動の始まり。でも一方で、コミュニティ・オーガナイジングで教わった「仲間」の考え方が私を変えました。

─── まわりの人との関係が変わったんですか?
すごく。私は、自分は医療者だし「支援する側」と思い込んでいたけれど、支援ではないんだと気付いたんです。支援する相手は「ただの受益者」ではなくて、「仲間になってくれる可能性のある人」。コミュニティ・オーガナイジングでは「同志」という言い方をする。一番の困難を知っていて、伴走すれば走りきれる当事者。そう考えると、見えてくるものが全然違う。そうか、私たちを支えているのもサロンに来てくれるママたちなんだって気づいて、仲間になってもらえるよう働きかけたんです。そうすると、それまで思い込んでいた「支援しなきゃ」っていう言葉の傲慢さみたいなものにも気づいて。

─── すごい変化
そんなわけで、ビジョンはモヤモヤしていたけれど、まず、仲間が増える感覚があった。団体メンバー4人が8人になりました。

その頃、もう一つ大きな出来事があって。2015年の8月に参加したETICの研修で、思い描くことを実現できない理由ばかり並べていたら、メンターの石川治江さんに「で、あなた、やるの? やらないの?」とズバリ聞かれて。この2択しかないんだと。それで、「やる」と口にしたら、やれる方法を考え始められるようになりました。それから会議を重ねて、2016年10月に、花巻で最初の産後ケア事業をスタートさせたんですよね。

─── 会議はメンバーたちとやっていたんですか?
ETICの研修3日間でざっくり考えて、まんまるのメンバーに「こういうことやりたい」って話すところから始めました。仲間は増えたけれど、産後ケアをめぐっては「何かあったらどうするの」とか、「そんなの都会だからできることでココじゃ無理」とか、ザワザワした空気になって。予定していた物件が使えないとか困難もあって。私も疑心暗鬼になって、みんなが魔女裁判にかけてくる村人みたいに見えたりとか。どうして協力し合えないんだろうって、誰も信じられなくなったときもありました。

写真:古里裕美
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