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今、初めて自分で選んだ仕事をやっている実感があります
對馬良美
NPO法人キッズドア/東北事業部 事業部長
宮城・仙台
自分でできると思っていなかった
─── どうでした? 新しい職場は?
最初は本当にわけがわからなかったです。
南三陸町に行ったことすらないのに県の助成をいただく学習会案件は「役場や地域の住民と連携して事業を進める」ことになってる。そもそも助成って何かもわからない。ベテランのボランティアさんにこれまでの経緯を教えてもらったり、役場や先生にアポ取って話を聞かせていただいたり、思いついたことをとにかくやってみました。
理事長の渡辺さんは東京にいるんですが、最初の内は電話やメールで日々相談していました。あるとき、自信が持てなくなって、もう辞めたいって思った時も、そんなことないから続けなよって励ましてくれて。頭の回転も行動も早い、すごい人です。
─── 大変そう……現場の調整役は気苦労も多そうです。
ボランティアの大学生たちとどう接して良いかわからず最初は戸惑いましたね。挨拶も愛想もない子も多くて、僕たち「コミュ障」なんですって言われたりして。勉強得意な大学生たちだから、学習面ではいいのかもしれないけれど……。
─── そういうとき、自分から動いたことはありましたか?
何かもっと、交流できる行事的なイベントがあったほうがいいと思って、企画するようになりました。学習会の子どもたちは、決まった時間に来て、勉強して、決まった時間に帰る。それだけじゃ、つまらないんじゃないかなあって感じて。
芋煮会、クリスマス、初詣、合格祈願なんかですね。子どもたちもボランティアも希望者は参加してねってチラシを作って呼びかけて。単調な日々のなかに、何か思い出に残るようなハイライトが年に数回はあるといいと思って。あのとき、誰それがああしたよね、こうだったよね、とか、後から話ができるような。
─── 反応はどうでした?
子どもたちは、行事があると楽しいって言ってくれますね。受験勉強に関係ないことは必要ないという考え方の人もいるんですが、「勉強以外にも、いろいろな体験をさせてもらえて感謝している」という親御さんからの声もあります。大学生・社会人のボランティアや私たち事務局スタッフなど、年齢もバラバラ、いろんな背景のある大人と共通体験ができることが子どもの成長に大事だと思ってもらえているみたいです。
─── 保護者と話すのに、接客で養った力がいかされそうですね。
そうやって、キッズドアで出会う保護者の方、子ども、ボランティアの大学生などから、頼られたり、楽しんでもらえることが、私自身の自信につながってきていると思います。「話を聞いてもらって楽になった」「頑張ろうという気持ちになれた」「『何かあったら對馬さんに相談しなさい』とお母さんから言われた」とか(笑) 困っている子どもや保護者が、新しい情報や経験を手に入れて変化していくのも嬉しいことですが、とにかく、たくさんいろんな人と毎日出会えるのが楽しい! 大学生や社会人ボランティア、東京の
スタッフ、支援者など、たくさんの関係者と繋がって、信頼を得られていることが、一番のモチベーションかなと思います。
─── 良美さん自身が変わったことはなんだと思いますか?
どうかなあ、考え方とか、生き方みたいなのはすごく変わったと思う。それまで知らなかったから、そういう世界というか……。
以前は、周りの人を見ても、仕事は仕事、プライベートはプライベートとはっきりしている人が多く、業務範囲外のことに積極的にチャレンジする人が少なかったように思う。会社から求められていることだけやるみたいな。
小さい箱の中に閉じ込められて、毎日が繰り返しみたいだったのが、今は、常に新しい刺激があって新鮮です。仕事上の裁量も大きいですし。自分からいろんな勉強会に出たり、自分から調べていろんなところに行ったり、いろんな人に会いに行ったり、以前だと考えられないです。2018年には、WEのグラスルーツ・アカデミーのシアトル研修にも参加しました。
─── そうやって動いていると、まわりの人に変化がありましたか?
友達に、「すごいね」「頑張ってるね」みたいなことはよく言われますね。そういうときは、ああ、この人は「割り切りたい人」なんだろうなあって思います。
─── そうですか。でも、例えば10年前の良美さんだったら、そういう人に対してどう言ったと思います?
うーん。でも、10年前はこういうあり方を知らなかっただけで。そもそも、そういうことが自分でできると思っていなかった。
OLさんとか、多くはそうだと思うけど、何日までにこの仕事やってくださいって業務が決められている。だから、それをこなすっていうのが仕事だと思ってましたよね。テレビとかで、いろんなフリーランスの人とかが、そうじゃない働き方、自分で考えて働くってい
うことをしているのは知っていたけど、自分がそういうことができるとは思えない、そういう特殊な人間ではないと思ってたんですね。そういう能力があって行動できる人は特別な人で、自分と重なるとは思えなかったし、どうしたらなれるかが分からなかった。
─── 今、充実しているんですね! 良美さんがこの仕事にかけている熱量を感じます。
大学卒業してからの10年間、周りから決められて動いていました。思い返せば、自分から望んで挑戦した仕事が一つもなかったんですが、今、初めて自分の意志でやっているという実感があります。自分がやりたいと思ったことが実現できている。今の仕事を始めてから、大勢の前で報告したり説明したりする機会が増えて、始めは緊張して声が震えて途中で訳が分からなくなったりすることもありましたが、最近はだんだん慣れて、自信がついてきました。これも変化ですね。
自分の成長も楽しいですが、人を育てること、人に影響を与えていると感じることが喜びになっています。そして、いま、私の周りにいる人たちみんなが大好きだから、私も頑張ろうと思えます。子育てって見ているだけで本当に大変で、私が母親ならどうなっちゃうんだろう? とかいつも考えちゃいます。 人を育てるって本当に大事なことだからこそ、それに私が関われていることが嬉しいんです。
- 對馬良美
- 1981年生まれ。福島県須賀川市出身、仙台市在住。旅行業専門の人材派遣サービス会社を経て、NPO法人キッズドア、東北事業部事業部長。2016年福島からグラスルーツ・アカデミー東北に参加。最近の休日の過ごし方としては、美容にハマっている。いくつになっても独創性があって、おしゃれな人でありたいというのが願い。
●NPO法人キッズドアホームページ: https://kidsdoor.net/
●キッズドア東北ホームページ http://kidsdoor-fukko.net/
インタビュー日 2020年10月15日 zoomにて
取材・文 塩本美紀
写真 古里裕美
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