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どこに住んでも地球人。美味しいものと綺麗な景色、素朴なことが実は楽しい
佐藤美穂子
農家民宿・カフェ 音水小屋/ふるさとの家保存会会長
青森 五戸
予備知識なく、丸腰での青森孫ターン
─── 美穂子さんは家族で青森の五戸町に移住して、農家民宿とカフェをやっているそうですが。
はい夫のおじいさんの家に住んで、いわゆる、孫ターンというやつです。うちは、青森というかそもそも東北にすら来たことなかったんです。足を踏み入れるなんて今まで全くなかったから、何にも予備知識なく丸腰で飛び込んで来た、みたいな感じやね。どこかに移住したくて、 田畑がある、家がある人と結婚したかったんですよ。
─── その話し方だと、大阪の方ですよね?
そうです、ここに来てから関西弁使うことが随分減りましたけど。
大阪生まれで、高校、大学を出てから新卒の就職で東京行って広告会社に勤めたんですが、1年半でリーマンショックでリストラされて……仕事にも合ってなかったんでしょうね。しばらく介護の仕事しながら、この先どうしよう……って思ってる時に今の夫に会ったんですよ。夫は埼玉出身やけど夏休みに遊びに行ってた青森のおじいさんの家が楽しかったそうで、自分がいつか戻って田畑もやりたいって言ってたんですね。わ、じゃあ、もう結婚しよう!って(笑)。
─── 美穂子さんはどうして田畑のある場所に移住したかったんですか?
大学時代に中国のハンセン病快復村のワークキャンプのボランティアをしてたんです。それで、1年半交換留学にも行って。自分がずっと書道を続けてたので、ほんまに、向こうの人って字うまいのかなーとか、そういう興味本位で(笑)。その、中国の快復村での自給自足的な農村の生活が、すごく心地よくてね。
東京に出てからも、ボランティア活動の先輩で関東の田舎に移住して自然農をやる人たちが周りにどんどん増えて。自分も週末、先輩のところに滞在するうちに、ゆくゆくは「農のある暮らし」をやれたらと思ったんです。農業というより、作ったものを食べてもらったり、いろんな農の体験ができるような空間を提供したり。移住の先輩たちが言うには、それなら現地で農業やってる人と結婚するよりも、一緒に移住してゼロからスタートの方がいいよって。だから、東京で出会ってどこかに行けたらいいなーと。食べものを作れたらいいな、場所も関東圏よりは遠いところに行きたいなくらいで、あんまり詳しく思い描いたりはしなかったですね。
─── そうだったんですね。じゃあ、東京で結婚して。
はい。2012年に結婚して、東京で子育てしてたんですが、2016年にマンションの契約更新のタイミングでこっちに来ました。夫はシステムエンジニアだったんですが、農薬と化学肥料を使わない農家さんのところで2年間研修して、今は独立して農家です。うちは、来た最初の頃は近所にある町の温泉施設「倉石温泉」で働いてました(現在修理中にて閉業中)。そこだと、歩いて5分ぐらいで行けるんですよ。最初は家に風呂がなかったし、私がペーパードライバーで車も1台しかないから本当に助かりました。ほんまに地元の人ばっかりの、憩いの場みたいな温泉で。主に掃除してましたが、夕方ちょっと受付に立ってたら、まあ、色々しゃべりますよね。それで、皆さんにも顔覚えてもらって本当に良かったですね。でもこっちから言わなくても、あそこの佐藤さんの家にどこどこから帰ってきてみたいな感じで、もうね、そもそも全員私のこと知ってるみたいな(笑)。あー、SNSなんかいらんよね、ここら辺ではって思いました。
─── お父さんやおじいちゃんを知ってるよ、みたいな方がたくさんいて?
そうそう、お父さんの同級生とかがいっぱいいますよね。家もあるし、農地もある。田んぼの一部はかろうじてお父さんが人に貸していたのを返してもらってやってるんですが、あとはもう草だらけの耕作放棄状態になっていたところを畑に戻していって。家は空き家になって10年ぐらい経ったところでした。