053

いつでも、自分が来た道を認められるように。コツは「独自解釈」

菊地陽子

大野村農園
福島 相馬

子育てと農業の両立は案外、普通です

─── 10年間、正反対の旦那さんと一緒に農園を切り盛りしてきて、改めていかがですか?

夫は0から1を生み出す担当。ウチは1を10にすることはできるんやけど、0から1は全然できん人やから、両方必要だったなと思いますね。仕事をしていると自分と同じ人間がもう一人いたらはかどるのになって思うことはありますが、ずっと同じことをやってたら時代の流れや社会の変化についていけない。有性生殖のメリットは多様性やから。無性生殖は自分のコピーを作り続けて安定。一方、有性生殖は性質が異なるものを掛け合わせることで多様性が生まれて環境の変化にも対応できる。ウチは有性生殖のメリットを最大限に発揮してるのかも。これも独自解釈やね(笑)。

─── 陽子さんは農業をしながら二人のお子さんの子育てもしていますよね。都会での子育てと違って、ここでよかったなーと思うことはありますか?

やっぱ、いい写真がいっぱい撮れること(笑)。”映える”ポイントがめちゃくちゃある。子どもが畑に置いた収穫カゴの中で寝てる様子とか、畑をうろうろしよる姿も良いし。でも、もしウチが都会で子育てをしてたら、それはそれで楽しみを見つけてそうな気がします。

二人とも保育園には預けず、幼稚園からでした。しかもこの地域の幼稚園は年中さんからなので、4歳までは家で見ました。子どもを連れて畑仕事をしよったら近所のおばあさんが「あんたを見とったら若い頃を思い出すなー」って、戦後のすごい悲痛な思い出を語られたこともありました(笑)。ウチがすごい辛い思いをしながら子育てと農業をやってると思ったらしくって。確かに0歳児のうちは自分の仕事が思うように進まんこともあったけど、仕事をしながらの子育てが特別大変だったとは思いません。「夜なかなか寝れんかったな」とか、「離乳食ぶちまけられて米粒だらけになってめんどくさいな」とか、悩みは他のママさんと同じです。むしろ、子どもをおぶって直売所に行くとめちゃくちゃチヤホヤされたり、スーパーのイベントで娘が「いらっしゃいませー、卵いかがですか」って言うとおばちゃんたちが「じゃあ買っちゃおうかしら」ってメロメロになったり(笑)。他の人ももっとそういうことができたらいいのになって思いますね。自営業やから成り立つんかなぁ。

実家は父が自営業でピアノの調律師、母が専業主婦だったので、家に帰ると親がいることが当たり前やったんです。父は色盲で運転できんから、母が父を乗せてお客さんの家まで行くんですけど、その車にウチも一緒に乗って行ったりしてました。家に職場があって親の仕事を目にする機会があるっていうのは良いなと思いますね。

─── 今の仕事や暮らし方はご自身の感性にフィットしたんですね。そういうフィットするものに出会えない人がかなり多いと思うんですが。

ウチがこの職業じゃないことをしていても、たぶん今と同じようなことを言って満足してると思います。他の道を選んでたらって思わんわけでもないけど、時間は戻せんし、こうなった道を認めるしかない。自分に合う道を探し続けていても、ベストが見つかる訳ではなくて、その人が変わらんと見つからんのかなと思います。一回決めたなら、その場所で上手くいくように自分でやっていくしかない。今も100%好きな仕事ばかりかと言うと、そうでもないですよ。ウチはやっぱり朝から晩まで外で農作業をしてる方が好きやから、事務作業や発送作業に追われている時は「う〜ん」と思うことはあります。でも、作業中にお気に入りの曲を見つけたりラジオが面白かったりすると楽しい。嫌いな仕事で体力ゲージが減るスピードと、音楽とラジオでゲージが増えるスピードが同じやったら、ウチはどんな仕事も永遠にできるかな。

1 2 3
菊地陽子
1985年生まれ、香川県高松市出身。型破りな若手農家として有名な菊地将兵さんが園主を務める「大野村農園」を夫婦で切り盛りする。9歳の息子と7歳の娘の二児の母。結婚を機に夫の地元である相馬市に移住。平飼いで魚のアラや米糠といった地域資源を餌として与える「相馬ミルキーエッグ」の生産を中心に、野菜の栽培、自宅併設の直売所運営、農業体験・農業研修の受け入れ、民泊事業などを行っている。

大野村農園 https://www.oonomuranouen.com/

インタビュー日 2022年5月9日
取材・文・写真 成影沙紀

おすすめインタビュー