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いつでも、自分が来た道を認められるように。コツは「独自解釈」

菊地陽子

大野村農園
福島 相馬

発散より、問題が解決するかどうかが一番大事

─── 農園では息つく間もなく次から次へと新しい取り組みをしている印象です。旦那さんは「理想に燃える人」ですけど、数字を見ている陽子さんは結構大変なんじゃないでしょうか。

そうやね。最初は野菜栽培から始めて、2015年に養鶏をスタート、2017年には相馬の在来野菜「相馬土垂(どだれ)」っていう里芋の復活、2018年からは豚の放牧、今年は加工所をつくる予定です……って結構盛り沢山やね。アイディアは夫、それを実現させるために現実的に何がどれぐらい必要か、どうすべきか?って考えるのはウチ。新しいことに手をつける度に、計画立てたり、いろんなところに許可を取ったり、補助金の申請をしたり……事務系の仕事が発生するんですよね。それはウチの仕事やから、思いつきでポッとやってやめられちゃうと大変。新しいことをいろいろやるのはリスクがあるなと思いますね。夫は新しいことをどんどんやるタイプやけど、ウチは保守派で安全志向なので。

─── お互い意見が衝突して、険悪になっちゃったりしないんですか?

なります。例えば夫が豚を飼いたいって言い出した時、ウチはずっと「えっ、大丈夫なん?」って感じやったのに豚が来た(笑)。でもまぁ、無事に豚肉が売り切れたのでOK。大事なのは問題を解決できるかどうか。お互い正反対やけど、大きな方向性は同じかなと思います。あんまりメジャーなものに巻かれないとか、自分の好きなものがハッキリしてるとか、子どもを優先させるとか。あとは物事や社会に対して「それはおかしいな」って感じるポイントがだいたい一緒かな。

夫のことに限らず、日々、仕事のことでもいろいろあるけど、「独自解釈による不満解消法」を発明して対処してます。例えば、SF解釈(笑)。夫がすごく暦に疎くて、「今何年?」って平気で聞いてきたりするんですよ。自分で調べればすぐわかること……っていうか、今話しかけてる私の後ろにカレンダーがあって、「見りゃあ分かんじゃん」っていう状況で。ええ〜〜っと思いながら「2022年」って答える。これをどう解釈するかというと、「夫はタイムスリップした」と(笑)。SFモノで、主人公が不慮の事故をきっかけに江戸時代にタイムスリップしちゃうっていう設定、よくあるじゃないですか。そこで最初に出る台詞が「今って何年ですか?」ですよね。それ以外のシチュエーションで発せられる台詞じゃない。だから「夫はタイムスリップしたのかな」と思うと腹が立たない(笑)。SF解釈その二は、例えば運送会社の人に空欄の送り状を頼んだんやけど、何回言っても持ってきてくれない時。別のスタッフさんに頼んでも来ん。3人目に頼んでも来ん。「これは運送会社が悪いんじゃない。ウチがループ空間に閉じ込められよる!」っていう解釈をする(笑)。それぞれに30枚ずつ頼んで、結局4人に頼んだから、ループ空間から開放されて120枚同時に来たらどうしよう、って考えたりして。

─── なるほど。相手のせいにしない、相手にぶつけないってことなんですね。

どう考えても相手が悪いんやけど、相手を変えることはできん。忘れっぽい人とか、何回も同じミスをする人とか。相手を変えることは無理やし、変えようとすると余計なストレスがかかるから自分を変えるしかない。よく、友達と集まると「陽子さんは旦那の愚痴とか言いたくならないの? もっと言えばいいのに」って言われます。ストレス発散が目的やったら愚痴を言う意味はあるけど、ウチは発散したいというより問題が解決するかどうかが一番大事。だからストレスにならないように独自解釈です。

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