032
飛び込んだから自分の価値に気づけた。今度は女性の生き方を応援する側に
板林恵
一般社団法人トナリノ
岩手 陸前高田
既存の仕事に全てを求めず、「なければ作ればいい」と思えた
─── 今は女性が働く・活躍する場づくりもしている恵さんですが、始まりは何だったんですか?
トナリノで働く前は、大船渡にあるNPO法人こそだてシップで働いていました。こそだてシップ主催の0歳の赤ちゃんとママが参加できるママサロンに次男と参加していた時に、「子連れでいいから、ママサロンのお手伝いしてみない?」と代表の方に声を掛けてもらったんです。被災してそれまで支援される立場だったのが、自分も動く側に立った感じでした。それから、ベビーマッサージなどママ向けのイベントをしたり、週2、3回事務作業をしていました。約3年働き、いろんなママと関わる中で自分の目指す方向性が見えてきたんですよね。子どもの成長に合わせ次のステップに上がりたいと思い、退職の意思を伝えました。意思を伝えてから退職するまで半年間の期間があって、その期間中に転職活動をしたのですが、なかなか大変だったんです。
─── どういった点が大変でしたか?
正直、独身の頃は仕事探しに困る事はなかったんです。結婚、出産をして、子どもとの時間もとりたいと思うようになり、でも1日の半分は仕事なんですよね。だからこそ、やりがいのある仕事がしたい。一方、自分が理想とする条件と、企業が提示する労働条件がなかなか合わない。妥協して入ってもすぐ辞めたくなると思って、そこだけは妥協したくなかったんです。でも思うような仕事がずっと見つからなくて。
そんな時に、グラスルーツ・アカデミー東北という研修に参加して気づいた事が、最終的に転機となりました。
─── グラスルーツ・アカデミー東北って何ですか?
ウィメンズアイ が東北の被災3県で地域に根ざした活動をする女性を対象として開催していた研修の場です。こそだてシップに所属している時に、「参加してみない?」と声をかけてもらいました。東北の女性たちだけではなく、海外の人たちも来るというので、話をしてみたいと思って、2015年に宮城県で開催された研修に参加したのが最初です。初めて参加した時は、脳みそが沸騰するかと思いましたね。鼻血が出るんじゃないかと思うくらい(笑)。
「女性目線で復興に取り組み、こんな活動をしています」と、はじめて口に出して、世界中の人たちと共有した感じでした。その後も何度か国内研修に参加することができたのち、2018年に行われたロサンゼルス研修では、自分の中にあったもやもやが、スッキリと晴れました。
─── 何か発見があったんですか?
はい。仕事への新しい価値観を発見できました。仕事内容、労働条件、社会的に実現したいことを、すみ分ければいいんだなということを知ることができました。仕事に全てを当てはめるのは無理だから、やりたい職種や自分の経済的な部分と労働条件と。どこに一番重きを置いて、仕事を選んでいくかだと。この仕事ではここが満たされていないなと思う部分があるとしても、やれる機会を自分で作ればいいんだなって。全てを満たす選択肢なんてないから、なければ作るということができればいいのかなと思えたんです。その上で、自分を知ることは自分の価値を知ることだという気づきを得ましたね。
─── 具体的には、ロサンゼルスでの研修で恵さんに何があったんですか?
自分の震災後の体験を発表したんです。アメリカ赤十字のスタッフの人たちの前と地震学者の方のお家の2か所で発表をしました。子育てをしている人が、災害時に実際どんな動き方をしたのか知りたいということで、私の実体験を話しました。
話してほしいと言われた時、「私の話でいいんですか?」と聞いたんです。そしたら「みんなはあなたの話が聞きたいんだから、堂々と喋りなさい」と喝をいれてもらいました。自分なんて、自分の話なんてと言ってしまう私に、「それが価値なんだから」と言ってもらえた時、自分の中で何かが変わった瞬間でした。
それから、ロサンゼルス研修を通じて、仲間ができたことも大きかったです。