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地域の宝にもっといろんな角度から光を当てて、反射した光を世界中に送りたい

鈴木英里

東海新報 代表取締役
岩手 大船渡

誰のために働いているのかが見えたとき、自分になかった「芯」がうまれた

─── 目標を持てたきっかけはあったんですか?

率直に言って震災でした。震災直後、新聞配達をしてくれる販売所がほとんど被災して、新聞を配達する手段もなく、読者も広告主である企業も被災して、収入がほぼゼロの状態に置かれました。でも、あの時は、テレビも見られない、電話もつながらない、車もないで、みんな情報が得られず、隣町のことさえ分からない状況でしたから、今こそ東海新報が求められているということを痛切に感じられたんです。

─── 具体的には、どんなことがあったんですか?
配達の手段がなかったので、社員で手分けして、各避難所に新聞を届けに行っていたんですが、避難所の扉を開ける前から、向こうで待ち構えている空気が伝わってくるんですよ。開けるとみんな寄ってきて、目を皿のようにして新聞を見ている。その時、地域紙が本当に求められていると、目の前で実感できたというのが、気持ちを大きく転換させました。誰のために働いているのかが見えたというのは、すごく大きかったですね。

─── 必要とされているって大きなパワーになりますね。

私も家はなくなっているけど、自分のことはどうでもよかった。とにかく目の前の人たちのために働くんだという気持ちになりました。今こそ、この人たちのために働くべき時なんだと。自分がそういう思いを持っていたことに気づけたんです。それが、今まで自分になかった「芯」になりました。これは今後何があっても揺るがないものですね。

─── とても強い決意ですね。英里さんをそこまで奮い立たせるものはなんですか?

自分自身、気仙がとても好きなんですよね。地元の人も、転勤や結婚して来た人も、若者にも、「こんなところにいたくない」と思って欲しくないんです。ここで生きる人たちに、気仙って良い所だなと思ってもらいたいんです。

楽しいことや、楽しく暮らしている方々の活動を取り上げることで、地域の良さを知るきっかけとなるし、地域全体の明るい雰囲気が醸成されていくんじゃないかと信じてやっています。それが地域紙の役割ですから。

─── 同感です! ここに暮らす人たちには、少しでもこのまちの良さを知ってほしいですよね。

そう思います。昔は「東海新報は女が読むところがない」と言われていました。「堅苦しくて、男の人が読むものだ」って。でも、私が来たからには、誰が読んでも面白いなと思えるコーナーがほしいな、女性や若者の目を引くようなカラフルで読みやすい紙面を作りたいなと思っていました。

それから、女性社員で企画を立ち上げて、それぞれ興味がある事を好き勝手に取材しました。音楽やグルメ、ファッション、この地域のオシャレなスポットなどを紹介するというコーナーです。以前よりは、少し“柔らかめ”の紙面を増やせたかなとは思いますね。

─── 雑誌みたいなページもあるんですね!

はい。2016年に東海新報をオールカラー化したことで、雑誌のようなビジュアルがうまく映えるようになりました。雑誌と新聞は作り方が違いますが、出版社で学んだ手法を、新聞にも反映させています。カラーになったことで目を引くし、リアルに伝わりやすくなったなと思います。地元の方が見て下さっているんだなと、感じることがすごく増えましたね。ダイレクトに読者の反応があるんです。

写真:本人提供

─── どのような形で反応が分かるんですか?

取材先で直接言われることもありますし、電話やメールで感想やご意見をいただいたりもします。年配の方ですと、ハガキで届くこともあります。こんなに、見て感想もいただけるんだと。良い意見はもちろん、お叱りの言葉が届くこともありますよ。でも、反応や手ごたえがあると次に生かせるし、読んでくれている人が分かると、他に何ができるかなと考えられるんです。改めて、地元に密着した仕事だなと思いますね。

─── 英里さんってポジティブなんですね。

そうなんです。悪いことはすぐ忘れますね(笑)。 嫌なことがあっても、読者から激励をいただいたりすると、それでへっちゃらになります。負の感情が沸いても、深く考えない、忘れよう! と。「私はもっと先に大きな目標があるんだから大丈夫。目指しているところはこんなところじゃない、ちっぽけなことは蹴散らしていくぞ」という感じですよ。

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