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職場はまるで拡張家族。「こんな会社あるんだ」って若者が町に戻ってくれたら

安藤仁美

映像デザイン制作会社はなぶさ プロデューサー
宮城 南三陸

子育てに周りを巻き込む、織り込み済みにしていく

─── 旦那さんとは、仕事を通じて知り合った?

はい。大学職員時代、研修用の動画を作るということで、忠義さんが紹介してくれたのがフリーランスの映像クリエイターだった今の夫です。

夫は一関の千厩出身で、東京の美術大学を卒業後、家業である町工場を継ぐために戻ってきていたんですが、震災が起こって。ここで支援活動しないと後悔すると思って、NGOに入って担当していたのが南三陸のエリアでした。支援を通じて南三陸の人と深く関わるうちに、この町の力になりたいという思いが強くなり、2017年に起業しました。実家がはなぶさ工業という社名だったので、自分の映像デザイン制作会社を「株式会社はなぶさ」という名前にして、業種は違うけれども、のれんは守る形にしています。

─── 仁美さんも、2020年にそこに合流したんですね。

そうです。その後、自宅兼事務所を建てました。1階が事務所で2階が自宅、スタッフは2名(2023年4月取材時)来てもらっていて、私も含めてみんな正社員です。

地域密着の映像デザイン制作会社とは言っているんですけど、東京の仕事で撮影地は東北、とかも多いですね。

─── 家族経営の会社って、社長の奥さんが経理やりながら女将さんみたいなイメージがあるんですが。

夫の実家は、そういう感じですね。でも私の場合は女将さんとは誰も思ってない(笑)。本当に、普通に仕事してます。まあ、研修動画をどう作ろうかっていう最初の出会いの時から相談しながら一緒に作ったので、撮影・編集を夫がやり、シナリオやアポ取りといった調整を私がやるという役割分担がだんだんできてきたっていう感じ。夫婦ですが、雇用されている立場なので、人事考課的な面談もありますよ。

─── そうなんだ。二人で子育てもしながら、ですよね。アンケートに、3番目の子どもができたことが大きな変化だと書いてくれていましたが。

そうなんです。今改めて思うのは、昔から人の期待に応えようとするところがあって、移住してからは、若手移住者ということでいろんな地域活動の担い手になったり、町の委員を務めたりして、仕事面でも頼りにしてもらっているのがわかってがんばってきたんですね。それが、子育てしながらだと、あっという間にキャパオーバーになってしまう。目の前のこと以外に手を伸ばす余裕がなく、視野が狭くなったように感じて、「期待に応えられていない自分」に対して焦る気持ちがありました。

それが、自分も夫も3人兄弟で、なんとなく3人産んだら終わりだなって思っていたところ、ちょうど33歳で3人目を生んだんです。そこで、キャリアの目処がついた。この子が小学校に入る頃40歳になる、あ、もう30代は子育てだな、このまま行くんだなって思って。じたばたしてもしょうがないと、変に焦ることがなくなりました。

─── 事務所と自宅が同じ建物だとはいえ、3人の子育てしながらは大変ですよね。

そうですね、経営者の家族には育休はなくて。でも、会社が拡張家族みたいで、若いスタッフ2人がよく子どもを見てもくれます(笑)。例えば、私も夫も仕事が落ち着かない時は、今日夕飯一緒に食べていかない? みたいな感じで、その間子どもを見てもらったり。子どもたちもスタッフをお兄ちゃんお姉ちゃんと言って育っていく、「同じ釜の飯」的な感じ? 4時半になったら否応なしに子どもたちが保育園から帰ってくるので、それを見ながら仕事をするっていうのも織り込み済みじゃないと進まないですね。

お客さんとのzoom会議でも子どもが途中で泣き出して、スタッフが連れていく、そんな様子も全部見せながら仕事して、織り込み済みにしてしまうしかない。子どもを背負って東京丸の内での撮影にも行きました。東京だから時間託児みたいなのあると思ったら、びっくりするくらい高くて「無理」って(笑)。

─── すごい。周りの人を巻き込む育児って、古くて新しいですね。

私自身も子育てを自分だけでするのは無理だろうなって思っていたし、地域で暮らすのであれば、いろんな人に関わってもらって子育てしたいなっていうのは元々あったんですね。あとは、もうそうせざるを得ない状況。事務所と自宅一緒にしちゃったし、プライベートと仕事がきっちり分けられるわけはなくて。

─── 旦那さんの実家が自営業だったことも影響しているんですかね?

そう思います。義理のお母さんもそういう感覚でいてくれるので、仕事立て込んできたから子ども見に来てほしいですって言うと、はいはいって来てくれる。あと、朝5時とか朝早い現場がある時に前泊とかってなると、宿泊出張におじいちゃん、おばあちゃんも子どもも全員連れて行って旅館に泊まってついでに旅行気分、みたいな。年に1回ぐらいそういう現場があります。

─── 他にも、子育てを助けてくれている人っています?

1人目の時はまだいりやどに勤めていたので、育休があったんです。その時に、ウィメンズアイの「井戸端会議」で同じ世代の子を持つママたちでアイデアが出て盛り上がって始めた「あずかりあいっこの会」というのがあって。それは結構大きかったですね。それまでフルタイムでがっつり働いていただけに、育休中って急に「ずっと家にいるの?」って不安になる。やることもないし、大人と話す機会がだんだんなくなって、自分のボキャブラリーが減っていくのがわかるんですよ。そういうのが、よそのお子さんをあずかりに行くことで、そのママたちと一緒に会話することでちょっと解消されたり。あずかりあいに行くこと自体が社会参加みたいな。あずかりあいっこに場所を貸してくれた南三陸社協の結の里の皆さんがよくしてくださって。もう赤ちゃん連れてきたら、わーってみんな1回出てきてくれるんですよ、事務所から(笑)。で、ずっと泣いている子とかいたら、代わろうか? って言ってくれたりして。

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