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ママと子どもに寄り添うことが気仙沼の未来につながると信じ、今を一生懸命に

半沢裕子

一般社団法人おりがみ(カフェHATA/出張託児/こども食堂)代表
宮城 気仙沼

明日のことは誰にも分からない。だからこそ、今この一瞬を大切にしたい

─── その後、一般社団法人おりがみを設立してカフェHATAをオープンしますが、どのような経緯だったのですか?

「絵本カフェ架け橋」は私にとって、理想の場所でした。子育てママに必要なものは何だろうってみんなで考えたことを次々実現していくこともできた。だけど、新型コロナウィルスの感染が広まり、カフェを経営していくことが難しくなってしまったんです。はじめはマスク不足もあって、布マスクを作って販売するなどして、なんとか維持していきたいと頑張っていたのですが、それも難しくなってきて……、やむを得ずカフェを閉じることになりました。

だけど、しばらくすると、「やっぱり絵本カフェのような場所がほしい」「子連れで気軽に行ける場所があったらいいのに」などの声をたくさん聞くようになり、私自身もその必要性を感じて。「だったら、自分で始めればいいじゃないか!」って思ったんですよね。

─── 裕子さんが代表を務める「おりがみ」は、どのような活動をされているのですか?

「おりがみ」には3つの事業があって、1つは「絵本カフェ架け橋」と同じように、子連れママが気軽に利用できる場所を提供すること。2つめは月に2回、地域の子ども達を対象に「こども食堂」を開くこと。3つめは、子育て中のママたちが自由に動けるように、その時間にお子さん達のお世話をする出張託児を請け負っています。

─── 拠点となるカフェは、どちらにあるのでしょうか?

私が生まれ育った鹿折にあります。そこは震災後10年間空き家で、津波で天井まで水が浸かった物件で、かなり痛んでいたんですけど、「絵本カフェ」のときから一緒に働き今は「おりがみ」のスタッフになってくれた6人と、その家族を巻き込んでみんなでリノベーションしました。幸い、私の父は大工、スタッフの旦那さん達も手に職を持ったメンバーがそろっていまして。子ども達にも手伝ってもらいました。

─── 建物はどのような間取りになっているんですか?

入口を入って左の部屋がカフェ「HATA」です。ここは子連れに限らず、誰でも利用できるようになっています。ベラルーシ出身のスタッフがいて、ベラルーシ料理が食べられるんです。奥右にある大きな部屋は、子連れママたちが自由に出入りできるフリースペースにしました。授乳室やおむつ交換する場所も用意し、小さなお子さんがいるママも安心して過ごせるようにしました。部屋には子どもの遊具をそろえ、外にも出られるようにしました。部屋の中と外がつながるつくりにしたので、子どもはのびのびと遊ぶことができます。

2階は貸しスペースになっていて、今は英会話教室が入っています。まだできたばかりなので未定のことが多いのですが、今後はいろいろことに活用できたらいいなと思っています。

─── 出張託児を始めるようになったきっかけは?

実は気仙沼には、子どもの一時預かりをしてくれるところがなかったんです。この地域は昔から二世帯暮らしが多くて、おじいちゃんおばあちゃんが子どもの面倒をみるというのが多かったんですね。でも、震災で多くのお年寄りをなくし、一方で新たに移住してくる人も増えたりして、住人たちの生活スタイルが変わってきているのに、依然そのままの状態で。ママたちが一人でどこかへ行きたい、何かをしたいというときに、子どもを預かってくれる人がいないという問題があったんです。

私も以前、困ったことがあって。子宮がん検診に行きたいのだけど、子どもを預かってくれるところがなくて、子どもを連れて行ったのですが、子どもが「抱っこ、抱っこ」とせがんできて離れず、仕方なくお腹の上に抱っこしながら、診察台に上がったんですけど、子どもは泣くわ、私はバランス崩すわで、そりゃあもう大変でした。もう二度とこんな目にあいたくないと思ったけど、それで検診に行くのをやめてしまったら……。実は私、同世代の友だちを2人も癌で亡くしているんですよ。そのときに思ったのが、「もし、もっと早く検診を受けていれば」って……。

─── そんなことがあったんですね……。

「絵本カフェ架け橋」をやっていたときから、出張託児をやりたいと思って始めていたのですが、当時はまだ周りに理解してもらえなくて、市役所からも必要とされる可能性がなかったのですが、今は市役所のたくさんの催しにつけてもらえるぐらい理解されるようになってきて、実際利用するママたちも多いんですよ。「おりがみ」では今、気仙沼市が行っている総合検診やがん検診のときに、ママ達が気兼ねなく受けられるように出張託児を担当させてもらっています。また、市やNPOが主催する女性のスキルアップ講座の託児もお手伝いしています。

─── では、順調に広がっているのですね。

託児の需要は高まっていると思います。だけど、難しい面もあって。以前、市の公民館でママ達向けの講座があり、出張託児を担当したのですが、同じ場所で会議をやっていた人達から「子どもの声がうるさい」ってクレームが来てしまって。公民館側からも「同じ建物で騒がれると会議ができないから、会議が入ったときは、会議を優先します」と言われてしまったんです。なんだかな〜って、ちょっと悲しくなりました。気仙沼はお年寄りが多く、逆に少子化により子どもに対しての免疫が乏しくなっているように感じます。だからこそ、「HATA」では、子ども達の声が聞こえることが当たり前になってほしいと思ったんです。

─── 運営していく上での悩みはありますか?

「絵本カフェ架け橋」では、ゲストハウス「架け橋」を作ったNPO法人cloud JAPAN代表理事の田中惇俊さんにサポートしてもらうことが多かったのですが、独立して自分で運営をするようになると、やはり資金面でのやりくりが大変だなと感じます。事業の多くは助成金などで運営していますが、毎年申請をしなければならないので、今できていることが来年はできなくなってしまうかもしれないという不安は常にあります。

だけど、先のことを考えて動けなくなってしまうのは嫌だなと思って、今を大事にしています。

そう思うようになったのは、やっぱり母の死が大きいんですよね。あの日、母はいつもと同じように「いってきます!」と元気な声で家を出て行きました。まさか、それが最後になってしまうなんて……。あの日を境に、私は「自分はいつ死んでもおかしくない。明日死んでしまうかもしれない」って思うようになって、「だったら、今日を精一杯生きよう」「今日、ここに来てくれたママたちに喜んでもらえるように、精一杯のことをやろう」って。「子育て中のママたちに寄り添う」という大きな柱はしっかり立てておくけれど、先のことばかり考えて悩むのはやめよう、今を一生懸命頑張ろうと思ったんです。

震災のとき0歳だった長女は、小学5年生になりました。3人の子どもはどんどん成長しています。子ども達が大きくなるにつれて、子育て中のママたちの気持ちが分からなくなってしまうかもしれないけれど、子連れのママたちと子どもに寄り添うことが、気仙沼の未来につながると信じて、続けていきたいと思います。

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半沢裕子
1983年生まれ、宮城県気仙沼市出身。一般社団法人おりがみ代表、NPO法人cloud JAPAN副代表理事。介護職をしていたとき、長女の育休中に震災に遭う。子育て中に、気仙沼にあるゲストハウス「架け橋」に出会い、同スペースで運営していた「絵本カフェ架け橋」のスタッフになる。その後、独立して一般社団法人おりがみを設立し。西八幡町にあった空き家をリノベーションして、子連れママが気軽に集まれる居場所と誰もが楽しめる家カフェ「HATA」をオープン。こども食堂や出張託児も行う。3人の女の子のお母さん。

家カフェHATA https://www.facebook.com/iecafeHATA
一般社団法人おりがみ https://www.instagram.com/origami_hata/

インタビュー日 2022年3月3日
取材・文 石渡真由美
写真 志田ももこ

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