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みんなの想いが詰まった建物を生かして残し、この土地の景色を守っていく

豊田千晴

NPO法人中之作プロジェクト事務局/豊田設計事務所スタッフ
福島 いわき

建物が壊され、この土地の景色が変わっていくことが苦しかった

─── 資金の目処がたたない……その時はしんどかったんじゃないですか?

うーん、正直ずっとしんどかったです……。「月見亭」は私一人で作業していた日も結構あって、辛くなったら海を見ながら作業して、気分を紛らわせていたこともありました。古民家の改修をメインでやっていると、設計事務所の仕事が手につかない時期もありました。2013年に妊娠して、つわりの中NPO法人の立ち上げ作業をやっていたときも、「清航館」を直すのと同時進行で自宅部分の設計もやっていて。いろんなことにとにかく追われ続けて、厳しかったですね。その時期は辛かったかな。

─── しんどかった時期は抜け出せたんでしょうか? 何か変化はありましたか?

「月見亭」をカフェとして運営し始めて、新しいスタッフも入って、2020年の10月くらいにやっと気持ちが落ち着きました。それまでは、「清航館」で何かあった時に対応して、「月見亭」の運営スタッフからの相談を受けて、その間に設計の仕事をして、家事・育児もして、髪を切りに行く時間もないくらいで。なんで私がこんなに大変な思いをしなきゃいけないんだ……という気持ちもありました。

その一方で、「月見亭」を改修している時、大変だったんですけど、いろいろな人との出会いが楽しくて、交流の場にもなったのはすごくよかったなと思います。建物ができていく過程も、「清航館」を残せた時も、すごく嬉しかった。

─── やりがいも沢山あったんですね。

改修ワークショップをやっていた時、中高生の子が毎週のように手伝いに来てくれて。中学生の女の子は仙台の建築の高専へ、高校生の子は大学の建築学科へ進学し、将来大工さんとかそっちの方向に進みたいと言ってくれて。子どもたちの夢のきっかけになれたことが、すごく嬉しいなあと思いました。

震災があって、どんどん建物が壊されていくのを見ていて、すごく苦しかったんです。涙が出るというか、知っている土地が変わっていくのが切なかった。いい建物が残っているのに、活用されないで空き家としてそのまま朽ちていく。この地域は海が見えて古民家も残っているので、風景を残すには建物を改修していくのが最短の道だよねと所長とも話していました。だからこそ、しんどいことが沢山あって、何度もくじけそうになったけど、あのとき選んだ「この土地の景色を残す」選択は、後悔していません。

─── 建物を残していく活動について、地域の人の反応はどうでしたか?

この地域は親戚同士の人が多いので、私たちは同じいわき市民でもよそ者なんですよね。よそ者がいきなり何か始めて、続かないだろうという目で見られているんだろうなとは思っていました。

でも清航館に併設した自宅を完成させて引っ越してきてからご近所さんとのつながりもでき、この地域の人はすごく温かいなと思いました。NPOの活動通信を作って毎月回覧板に入れて各世帯に配布しているんですけど、結構読んでくれていて。「あそこの『月見亭』になる予定の建物どうしたんだ?」と声をかけてくれたり、子どもと一緒にお散歩しているとお菓子をもらったり。

「(活動を通して)人が来るのは嬉しい」と言ってくれます。中之作は元々賑やかな港町だったんですよ。船もぎっしり停まっていて、「清航館」のあるここは商店街だったらしいです。賑やかだった昔を思い出す、そんな町だからできたのかなと思います。

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