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地元に帰ってきたから、自分らしくワクワクできるチャレンジがあった。

横山沙織

認定NPO法人底上げ スタッフ
福島 いわき

社会のために何かしたくて、何もできなかった自分

─── 沙織さんは、気仙沼にあるNPO法人で働いているんですよね?
認定NPO法人底上げは、気仙沼を活動拠点として、震災後に立ち上がった団体で、おもに、高校生・大学生・若手社会人向けの事業を実施していています。私は「自分のやりたいことを大切にして、行動することを応援し、ともに成長する。」というビジョンに共感して、2016年からスタッフとして運営に関わる様々なバックオフィス機能を担当しています。

─── 住んでいるのは福島県のいわき市だと聞いています。今はオンラインでの仕事が中心なんですか?
そうですね。底上げの各プログラム担当は、「やりたい!」と自分で選んで、手を挙げて決めるんです。今は、これまでやってきた大学生向けプログラム「SOKOAGE CAMP」のオンライン化を目指して、企画を立ち上げるプロジェクトに関わっています。もう一つ、他の団体と連携して、東北の高校生を対象にした長期オンラインプログラムの企画・運営にも携わっています。

─── 「SOKOAGE CAMP」って具体的にはどんな取り組みなんですか?
大学生を対象にした、気仙沼での6日間の合宿プログラムで、参加者同士の対話とワークショップを通して自分自身と向き合い、過去を振り返ったり、これからやりたいことなどをじっくり内省したりするきっかけを促します。そこから未来を考え、行動することを応援するプログラムを目指して実施してきました。

─── そもそもNPOで働くことに興味はあったんですか?
NPOで働くとはまったく思ってなかったですね(苦笑)

ただ小さい頃から、環境問題とか、貧困や難民とか、災害や戦争…同じ地球上に生きる人々の環境の違いに怖さをもっていました。今はすごく幸せに生きているけど、もし生まれる場所が違っていたら、幸せじゃなかったかも。なんでそうなんだろう? って。漠然と、なんとかしなきゃとは思っていたのかもしれません。

進学を機に横浜に上京し、大学生になったら社会のことがこれまでより少しは見えるようになって、地球の課題が多すぎるのに気づいたんですよね。何かしたいけれど、自分には何ができるのだろうと考えると……ボランティアにも行けず、勉強も嫌いだったし、どうしたらいいか分からなかった。何か社会の役に立ちたいと思っていました。

─── 何かしたいけど、何かは分からないという感じ? 
そうですね。新卒で銀行に入社し、4年間働いて、そろそろ地元の仙台に帰りたいなあと思っていた頃、実家の祖父の介護が必要になったんです。それで介護のサポートをしに2011年3月末で退職して実家に戻ろうと決めていた矢先に、震災が起きました。

─── Uターンを決めたことと、震災が起きたのが同じタイミングだったんですね。
はい。2011年5月のGW頃に実家に帰って、3か月間くらい家事手伝い兼介護をしていました。

そろそろ転職活動をしようと思っていたときに、NPO法人ETIC .が震災後に立ち上がった団体の右腕となる人材を派遣するプロジェクトを行っていると知り、銀行員をしていた経験から、民間財団の右腕に応募したところ採用されました。その財団で子どもを支援する団体への助成を担当していて、そこでNPO法人底上げと出会ったんです。活動している団体を財団スタッフとして中間的に支援することよりも、もっと現場を知って、自分にできることを探したいなと思うようになりました。

─── 何か運命を感じて(笑)、底上げに転職したんですか?
底上げのメンバーが同世代で気軽に話が出来たこともあって、思いが近い感覚はありましたね。財団で助成支援を行なっているなかで、未就学児や小中学生などへの支援の取り組みは沢山あったけれど、高校生への取り組みが少なかったんです。一方で、高校生は卒業したら、進学や就職を機に県外へ出て行ってしまう現状があった。県外に出て行くのはいいけれど、将来地元に帰ってきてやりたいことをやる、地域が面白いって思えるきっかけがあったらいいなと思って。

─── 沙織さん自身も、地元に帰ってきたことで、仕事が面白いって感じられるようになったんですか?
震災直後、東北にはこれまでにいなかったような層の人材が沢山集まっていて、地元出身者からもいろんなことが始まっている感覚が大きかった。そのエネルギーがどうなっていくのか気になっていたし、地域に根付いていったら面白くなるだろうと感じてもいました。地元に戻ってきたほうが自分らしくワクワクできる仕事があるっていうことを、私自身も実感していたので、地域に根差した活動を通じて、新しい社会や、わくわくする地元を自らつくることが出来る人材を育成することを目指していた底上げの思いに共感したんだと思います。

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