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デザインで人を幸せにしたい。ローカルから世界へ!

鈴木歩

pensea代表/デザイナー
宮城・気仙沼

お互いの価値観を大事にしたいから、二拠点生活を選んだ

─── NPOでの仕事に続いて、デザイン会社「pensea」を設立したんですね?。会社を作ったきっかけは?
おかげさまで仕事の量が徐々に増え、自分一人でデザインを請け負うことに限界を感じたからです。スタッフを増やすことで、自分一人ではできなかったこともできるようになり、仕事の幅が広がりましたね。今は地域の仕事と、県外の仕事が半々といった感じです。

でも、今に至るまではいろいろなことがあって……。

─── というのは?
実は当初、右腕プロジェクトで一緒だったNPOの代表と一緒に独立をする形で会社を立ち上げたんです。でも、少しずつ仕事に対する考え方にズレが出てきてしまって……。私はここでの仕事のやり方に魅力を感じていたので、これからも地域に寄り添った仕事をしたいと思っていました。でも、パートナーはもっと外にも発信していきたいと考えていたのです。最終的に歩み寄ることができず、パートナーが退く形で、別々の道を進むことになりました。この頃は本当につらかったですね。

だけど、続きがまだあるんです(笑)。

─── えっ?
実はそのパートナーが、夫になったんですよ。

─── ええっ!? それってどういうことですか?
仕事ではお互いの考え方が違っていたけれど、それとプライベートは別。そんなときに、「まさか」という感じで子どもを授かり、籍を入れました。

あまり理解にしてもらえないんですが、私たちは仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けて考えていて。その頃、夫は友人と一緒に千葉県の房総半島でゲストハウスを始めようとしていて、お互い自分の仕事を頑張ろうと、子どもは私と一緒に気仙沼の実家に暮らし、夫は千葉で暮らし、お互い行き来する二拠点生活をすることにしました。

コロナ前は月の4分の1くらいは家族3人で千葉で過ごしていました。離れている期間は毎日電話をしているので、遠距離でも一緒に子育てをしているという気持ちです。でも、今はコロナでなかなか会えないので、早く元の生活に戻って欲しいですね。

こっちはでは夫婦が別居していると、なんか訳ありなんじゃないかと思ってしまうみたい。そもそも聞いたら悪いと思っているのか、あまり触れてこないです(笑)。でも、そんな大げさな話ではなく、遠洋漁業の家族だったり、サラリーマンでいうところの単身赴任みたいなものかと。

─── 会社にしてから、何か変化はありましたか?
スタッフが加わったことで、仕事の幅は確実に広がりましたね。雇用しているというプレッシャーもあり、来る仕事は拒まず何でも受けるという感じで必死でした。そんなとき(2016年)に、経営未来塾に参加することになったのです。経営未来塾は、気仙沼で何かしらの経営に携わっている若い世代の人が20人くらい集められ、リーダーとは何かを学ぶもので、そこで初めて事業計画を立てることの大切さや、組織の役割などについて知ることになります。今までただひたすら仕事を受けて、会社として成り立っているようにと思っていたけれど、会社のビジョンや将来について何も考えて来なかったんですね。そのことに気づいてから、自分が本当にやりたいことは何だろう? と深く考えるようになりました。

─── うんうん。
そしたら、地域に寄り添ったデザインの他に、地域の子どもたちに向けた「デザイン教育」をやってみたいと思うようになったんです。私が子どもの頃、そう思っていたように、田舎ではデザインを学ぶ機会も、発揮する機会もない。でも、それは思い込みであって、子どものときからデザインに触れることができれば、デザインを身近に感じることができるし、そもそもどこにいたって表現することはできるんですよ。

そう思うようになったのは、やっぱりこの町でここまでやって来られたという経験からかな。今までは地域の仕事を中心にやって来たけれど、ここで培ったものを外でも生かしていけたらと思うようになり、今は県外の仕事も増やしています。

気仙沼って漁師の町だから、ハワイやインドネシア、マダガスカルなど海外へ行っている人が多くて、家に行くとどこかの国の置き物があったり、普通の会話で「マルタミコ(スペイン、バスク地方のマグロのトマト煮込み)が食べたい」とか出てくるんですよ。そういうのを見ていると、この町と世界がつながっているように思えて。目指すのは東京ではなく、世界なのかも! って思わせてくれるんです。

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鈴木歩
1980年生まれ、宮城県気仙沼市出身。中学卒業後、仙台の高校(デザイン学科)から山形の大学美大に進学。デザイナーを志し、上京する。パッケージデザインやファッション雑貨のデザイナーとして活躍した後、2013年に地元でデザイナーを募集していたのをきっかけにUターンする。以来、地域の商品パッケージやWEBデザインを多く手掛ける。2017年にデザイン会社・ペンシー(pensea)を設立してからは、地域の子ども達にデザイン教育も行っている。

●ペンシー(pensea) http://pensea.org/about/

インタビュー日 2021年2月3日
取材・文 石渡真由美
写真 古里裕美

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