003
「ゲストハウス」への夢の途上。恋した広野町をもっと知りたい
大場美奈
任意団体ちゃのまプロジェクト代表/広野町起業型地域おこし協力隊
福島・広野
まさかのNG、つながり合える「居心地の良い場」って?
─── みんなが帰りたいと思える場所をつくる。そのためのゲストハウスという想いになっていったと。
その後2年間広野町で働き、2017年に山形県南陽市の地域おこし協力隊に応募し、2年間の修行に出ました。2019年、今度は起業型の地域おこし協力隊として、また広野町に戻りました。
─── 広野町でゲストハウスをつくるという夢を叶えるため?
そうです。戻ってすぐ住民の人たちに向けて、「ゲストハウスをつくりたい」という決意表明のイベントを開きました。計12回ほど開催して50人くらいの方に来場して頂いたんですが、なんと、住民の人たちに口々に「ゲストハウスはいらない」と言われてしまって(涙)。
理由を聞くと、広野町は原発事故により全町避難をし、2012年の帰還以降、住民が集まる機会がほとんど無くなってしまったんです。ゲストハウスで新しい人を呼び込むより、住んでいる人同士が以前のようにつながれる場所やコミュニティが必要だと言われました。
─── やりたかったことが地域に求められていなかったんですか?
そのときは、地域に人を呼び込んで関係人口の交流や移住につなげるために、早めに手を打っておく必要があるのに、なぜ分かってもらえないんだろうと、すごく凹みました。ただ、10年、20年と持続できるようなゲストハウスにしたいと思っていたので、地元の人たちとの関わりはとても重要で。地元の住民たちに「いらない」と言われてしまっては、長続きしないだろうなって思って、ゲストハウスをつくるのは今じゃないと思えました。
─── よく気持ちを切り替えられましたね。
実は、諦められなかったとき、いつも背中を押してくれる地域の人に、「どうしても(ゲストハウスを)やりたい」と伝えると、「本当にこの町にとって必要なゲストハウスって何?」と聞かれて、答えられなかったんです。そこで、まだまだ広野町のことを知りきれていないんだと気づかされました。地元の人たちに求められている交流スペースを軸に地域を知り、地域のコミュニティを再びつくり直した後でも遅くはないだろうという気持ちに切り替えられました。
─── 実際、多世代交流スペース「ぷらっとあっと」を始めてみて、地元の人たちの反応はどうですか?
最初は、どうせやれないでしょって言ってくる町民の人が多くて(苦笑)
でも、実際に交流できる場を作ってみたら、地元の人たちが気軽に様子をみてくれるようになりましたね。本当に名前のとおり、ふらっときて、「ミカン取ってきたから、食え〜」って言ってくれる人や、ド素人集団で始めた内装のDIYに対して、地元の左官屋さんが下地を塗らないとダメだ〜っと言って材料をもってきてくれたり。地域の人の新しい面に触れられるようになってきました。
─── 広野町ってミカンがとれる最北の町なんですよね。広野町と関わるようになって、美奈さん自身に変化はありましたか?
岩手に研修に行った際、地域の方から「地域を主語にしてはいけない。その先の人をみなければいけない。人と関わるにはぶつかることを恐れてはいけない。そのためには、覚悟をもたなければいけない」というお話を聞きました。前までは、目の前のことしか見えない猪突猛進型の人間だったのですが、ぶつかることを恐れずに地元の人たちと向き合うなかで、地域との関わり方が少しだけ分かるようになったというか。想いを伝えるために、直感や感情だけではなく事実と組み合わせることで、現実的な落とし所がみえてくるようになりました。それでも行き詰まった時、手をかりることができる周囲の仲間に、とっても助けられています。
─── 美奈さん自身が、広野町で大きく成長しているんですね。「ぷらっとあっと」でこれからやりたいことはありますか?
この地域でコミュニティを育てるため、今は種まきをしているという段階です。
個人的には、ここをセルフケアの拠点にしたいなとも思っています。私自身がゲストハウスを初めて訪れた際、自分自身と向き合う時間になった経験から、「居心地の良さ」は大切にしたいです。とくに女性はたくさんの役割をもっていて、ひとりの時間をもつことが難しい人もいるので、ここでは真っさらな個人の状態でふらっと来れて、上下関係のないフラットな人同士が集まって、居心地の良い空間になれるようにしていきたいと思ってます。
イベントやワークショップなどを通して、それぞれの「やりたい」の種を見つけられたら素敵ですよね。自分を磨くっていうよりは、良くも悪くも、そのままの自分で良い、無理なときには無理って言っていいよってメッセージも発信出来たら良いな。それは、いつかゲストハウスでもやりたいなと思っていることなので。これからが楽しみです。
- 大場美奈
- 福島県いわき市出身。任意団体ちゃのまプロジェクト代表。東日本大震災後、広野町役場に入庁。2017年に退職し、山形県南陽市の地域おこし協力隊で経験を積んだのち、2019年、起業型地域おこし協力隊員として広野町へ戻る。県立ふたば未来学園中学校・高等学校内に新設された高校生主体のカフェ「カフェふう」立ち上げに携わる。現在は、2021年4月26日に全面オープンした「ぷらっとあっと」を運営。
ぷらっとあっと
●Facebookページ https://www.facebook.com/plat.at.hirono/
●instagram @plat.at.hirono
インタビュー日 2021年1月21日
取材・文・写真 鎌田千瑛美
おすすめインタビュー
-
宮城 気仙沼
畠山菜奈
舞根キッチン
舞根という土地に惹きつけられ、選択してきたことが形になっていく
-
福島
佐藤宏美
一般社団法人GDMふくしま 代表理事
生産者と消費者をつなげる場を、日常の暮らしのなかへ
-
福島 郡山
渡部友紀
家具と家の「ラ・ビーダ」/行きつけの杜プロジェクト
生み出したいのは分断ではなく、楽しい暮らしと美しい森
-
宮城 気仙沼
半沢裕子
一般社団法人おりがみ(カフェHATA/出張託児/こども食堂)代表
ママと子どもに寄り添うことが気仙沼の未来につながると信じ、今を一生懸命に
-
宮城 登米
佐藤裕美
有限会社 伊豆沼農産 取締役
勝負の世界を諦めて出会った農村の魅力。食で命を支える仕事に迷いも消えた
-
宮城 石巻
佐藤尚美
(一社)ウィーアーワン北上 代表理事/平地の杜プロジェクト
10年前に見たかった未来に立ち戻り、「平地の杜」の風景を次世代に