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生産者と消費者をつなげる場を、日常の暮らしのなかへ
佐藤宏美
一般社団法人GDMふくしま 代表理事
福島
生まれ育った大地の恵みが、いかに偉大だったかを知る
─── 今、宏美さんが行なっている活動について、教えてください。
「Gooddaymarketふくしま」という青空マルシェを、2016年から毎週日曜日に福島駅前で開催しています。福島県内の野菜や果物、加工品などを取り扱う生産者の方々が直接販売するスタイルで、生産者と消費者をつなげることを目的として活動しています。
去年から、「Gooddaymarketキッチンカー」を導入し、マーケットに出店している生産者の方の野菜を使った料理の提供なども行っています。
─── 生産者と消費者をつなぐことに、精力的に取り組んでいるんですね。
はい。今日お越しいただいているこの店舗も、「お百しょう屋」という野菜直売店として経営しています。好きなことを仕事にできているから大変とは感じませんが、人を雇わないと仕事がまわらない状況になってきて、仕組みづくりを考えている最中です。
─── 好きなことを仕事にできているって、素敵ですね。いつから農業に関心があったんですか?
うーん、農業というか、もともとは大学生の夏に京都を訪れた際、日本文化ってすごく素敵だなと思ったのがはじまりです。地元の人から四季折々の京都の魅力を聞いて、「もっと京都の文化を知りたい。そのためには、住んでみるしかない!」と、直感的に思いました。
京都に住むことを決めてから仕事を探して、老舗日本料理店の接客業の仕事をはじめました。そこが、食に関わる仕事に関わる入り口ですね。京都で暮らすようになって、福島の地元で暮らしていた頃に食べていた日常の果物や野菜が、いかに質のよいものであったかを実感しました。その後、新店舗の立ち上げを任されて北海道に引っ越すのですが、北の大地のエネルギーに圧倒されて、自然の力は全く違うものなんだと思いました。そのあたりから農業により深く関心が強くなった感じです。
─── 京都に住みたいって思ったから、仕事を決めたというお話、宏美さんはとても行動力がある人だなって思います。昔からそうだったんですか?
昔から思い立ったら行動しないと気がすまないタイプだったと思います。
中学生の頃にパレスチナの和平合意問題を扱ったドキュメンタリー番組を見て興味を持ち、いつか世界の人の役に立ちたいという思いを忘れることが出来なくなりました。
京都で仕事を初めて数か月の頃、仕事の人間関係で悩み、辞めたいと思うようになった時期があったんです。そうしたら、昔から抱えてきたパレスチナへの思いが湧いてきた。当時の上司が背中を押してくれたこともあり、10日間ほど仕事を休んでレバノンでのパレスチナ難民キャンプの支援活動に参加しました。その時に、自分が思い描いていたような支援はできなかった、生半可な気持ちで向き合ってはいけない問題なんだと思い知ります。
一方で、自分の手の届く範囲くらいは平和にしたいと思うようになりました。
─── 自分の気持ちが変わったことで、仕事に向き合う姿勢が変わったんですね。
そうですね。そこで、京都の自分の職場を「辞めたくなくなるくらい楽しいところ」にしたいと思って、がむしゃらに頑張っていたら楽しくなっちゃって。その姿を認められて、北海道の新店舗立ち上げを任されたんですね。北海道で3年勤めた後、内部の組織編成も重なって、そろそろ次のステップをと考えていたところで、東日本大震災が起こりました。
地元福島の様子も気になり、行き来しやすい東京の自然食レストランでの接客の仕事に転職しました。それでも飽き足らず、2014年に福島にUターンしました。生まれ育った福島で安全な食べ物を美味しく食べたいという思いが強くなったんです、ずっと食に関わる仕事をしてきたからこそだと思います。
─── Uターンしてすぐは、復興支援コーディネーターの仕事をしていらっしゃいましたね。
はい。県外避難者の方々の相談窓口の業務を担当し、県外に避難されたお母さんたちが抱える福島の食べ物に対する不安の声をたくさん耳にしました。
さらに、原発事故による放射能の影響で農業を辞めてしまう人や耕作放棄地の問題なども耳に入ってきました。震災が起きてからたくさんの努力を重ねてきた生産者の方々が農業を続けられなくなってしまう……。その一方で、放射能が降り注いだとしても、福島の大地にはそれすらいつか浄化する大きな自然の力があると信じたい気持ちがありましました。だからこそ、未来の子どもたちの世界に残せる食文化を作らなければと思ったんです。福島の農業がたくさんの課題を抱えるなか、正しい情報を伝えるために、まずは生産者の顔が見えて身近になる場としてマルシェの必要性を感じました。
─── 生産者と消費者がつながる場。マルシェへのこだわりはありました?
震災後にいくつかの団体が街なかでマルシェをやっていたんですが、継続していく難しさから活動を次々に辞めていました。この文化を無くしてはいけないと思い、2016年4月から月に1回のイベントとしてマルシェをはじめたんです。同年7月から、毎日の食卓の日常に根ざした地域の小さなマーケットにすべく、毎週日曜日の開催をスタートさせました。