生産者と消費者をつなげる場を、日常の暮らしのなかへ

「みんなでやったら楽しい」つながりの場をつくる

───　実際にマルシェを始めてみて、どんな変化がありましたか？

同じ想いの農家さんが運営メンバーの一員のため、始めた当初から毎回参加してくださっていて、お客さんのファンも付いて、その存在に救われています。現在、登録している農家は20軒以上。低農薬や無農薬など、自然にも身体にも優しい作物をつくるこだわりを持った農家が集まって、毎週4～８店舗が駅前広場に出店してくださっていますね。野菜や果物のほかに、ジャムやお菓子などの加工品もあります。農家さんとの会話を楽しみながら、福島のさまざまな食材を知り、買えるようになったことで、常連さんも増えてきています。

───　宏美さん自身も農業を始められたと伺いました。

　一昨年から畑と田んぼをつくり始めました。無農薬・無化学肥料で、いろいろ手探りしながら、まずは失敗しても「自分でやってみる」ことを楽しめたらと思って。マルシェに出店してくれている農家さんにも教わりながらですが、たくさん失敗もしています。農業をやっていると1年ごとに変化が見えてきて、循環させる大切さが体感できてきました。米は天日干しして藁を活用することで正月飾りをつくったり、籾殻で堆肥をつくろうという話になったり。ていねいな暮らしをしたいと思ってきたけれど、やりだしてみて、ちょっとずつできることが増えたと実感しています。

───　失敗しても自分でやってみる、大事ですね。ていねいな暮らしを大事にしたいと思った理由はありますか？

以前から趣味で茶道をやっていて、1から自分の手でできるようになると、無駄がない世界なんですよね。炭の火を起こし、食事も出して、お湯を沸かし、食事のあとにお茶を楽しんでもらうという流れ。作業や手順も無駄がなくて、それぞれに意味があるんです。暮らしに活用できる茶道の作法は理にかなっていて、全部自分でできるようになりたいなって思います。普段の日常は茶道とはかけ離れた現実なんですけれど……。農業も一緒で、自分の力で生きている感じを大事にしたいと思っています。目の前の自然に対してやるべきことをやれる姿は、人間本来の姿だなって。農業に触れていると、目の前の暮らしが命につながっていくことが実感できるんですよね。

───　全部自分でできるようになるって、とっても大変じゃないですか？

一人では出来ないからこそ、いろんな人と一緒にやって手伝ってもらうことで、一連のことを一緒に楽しめるようになれたらと思っています。一緒にやったほうが絶対に楽しいですしね。そのときに、お互いがWin -Winになるようにとは考えていて、私が助けてもらうだけじゃなくて、相手に対してもメリットになるように出来たらいいですね。農家さんの場合は、何年も一緒にやってきている信頼関係があるからお願いできることもあって、私と一緒にやることで、これまで以上にメリットがあるような仕組みにしていけたらと思います。

───　農家さんとの信頼関係を積み重ねて、今年から「お百しょう屋」という野菜直売店を始められたんですね。

お店を開けてみて、若い人が興味をもってくれたり、農業体験をしたいって言ってくれたり。毎日開いていることで、コミュニティの場にもなってきました。この農家さんの野菜が美味しいって分かってくると、直接買いに行こうかなって言ってくれる。マルシェで直接生産者の人たちとつながるきっかけになったらと思います。

—–宏美さんのやりたいことが循環し始めてるんですね。　これから思い描いていることはありますか？

コロナ禍で生活を見直す人が増え、農業に関心が高まり、追い風が吹いていると感じます。免疫力を高めたいという理由などから、無農薬や有機農業に関心がある人も。最近では若者自立支援団体との連携の話もあります。身近に買い物しにきてくれる人も増え、顔の見えるつながりが出来つつあるので、子育てしているお母さんや子どもたちなど、自然にみんなが農業に参加できるコミュニティが育ったらいいなと思っています。

インタビュー日　2021年1月31日
取材・文・写真　鎌田千瑛美