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福祉の隙間に落っこちちゃった人のために、起業という決断

高橋早苗

一般社団法人 COCO-ARUBA 代表
岩手 花巻

「なんで? なんで?」で引き込まれた福祉の道

─── あれ、今日は早苗さんの喫茶店は休業日ですよね? 今いらっしゃったおじさんは……?

ダンス仲間です。昔、若気の至りでダンスやってたんです(笑)。障害のある人と一緒にサークルをつくってダンスをやっていて、彼は最年長のメンバーだったんですよ。ダンスの後に飲み会をやったことがきっかけで、いまでは花見などのイベントごとに集まる飲み友達です。今日も5月末の飲み会の予定を「そろそろだべ」と確認しにきてくれたんです。彼にはいろいろ教えてもらいましたね。若い頃に統合失調症を発症して、入院もしたりして辛い時期もあったそうですが、今では障害を受け入れて、年金とB型事業所でもらった工賃で好きなことをしています。「俺は精神障害者だ」って胸を張って人生を謳歌してる。60代で「今が青春だ」って言うんですよ。“受け入れる”って、あぁこういうことなのかな……って。

─── いきなりいいお話! ありがとうございます。「一般社団法人 COCO-ARUBA」を起業されるまで、早苗さんはどんなお仕事をされてきたんですか?

20歳から40歳まで何種類かの福祉事業所で勤めてきました。最初に就職したのは障害児をケアする病院でした。対象は「重症心身障害者」と呼ばれる、重度の肢体不自由と重度の知的障害がある人たちです。さらにその中でも、「強度行動障害」といって体がよく動くので特に支援度が高い人たちでした。言葉でのコミュニケーションは難しい場合が多いです。関わる中で攻撃的なものを受けちゃうこともあって、その瞬間は「うわー嫌だなー」と思いますけど、「なんで今日こんなだ? お腹減ってるのかな? イライラしてるのかな? なんで? なんで?」って考えて、汲み取って関わる。その関わりに対して、笑顔になったり、すごく興奮していたのが落ち着いたり、何らかの“返り”がもらえるのが楽しかったんです。うん、楽しいですよ。

─── たぶん、そういう方たちを前にしたときの反応の多くが「思い通りにならない!」っていう怒りや苛立ちだと思うんですが、早苗さんはそうはならなかったんですか?

ならなかったですね〜。彼らは本当に“命そのもの”で、もう、生きてるだけで素晴らしい! と感じたんです。言葉は通じないけど、本人の思いはどこかにはあって、それが汲み取れたときに「ヒャッホー!」ってなるんです(笑)。逆に私は言葉が通じる大人とのコミュニケーションの方が苦手かも知れないですね。大人って裏表を使い分ける人いるじゃないですか。子どもは裏がないから、嫌だという反応をしたときの理由が分かりやすいんです。障害の有無にかかわらず、私は裏表がない方が関わりやすくてストレスがないです。逆に学生時代の人間関係の方が辛かったですね。ずっと生きづらいし学校嫌いでした。いじめ的なこともありましたし。「女のくせに生意気だ」とか言われて、男に生まれればよかったなとか思ってました。

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