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子どもたちが本来持つ「生きる力」が発揮される環境を作り続けていきたい
高浜菜奈子
つちのこ保育園園長
岩手 普代村
ずっと胸に引っかかってきた、海外での経験
─── 普代村で、岩手県唯一の森のようちえん「つちのこ保育園」を始めて3年経ったとのことですが。菜奈子さん本人も保育士になったんですね。
つちのこを始めた2021年4月の時点で、もう保育士資格を取ろうという気持ちにはなっていたんです。どうしてもやりたかった森のようちえんができる場所が見つかって、やはり自分自身がやらなきゃって。1年間実務経験を積みながら自宅で勉強して、翌年2022年4月に試験を受けて8月に資格登録しました。よくよく考えてみると、そもそも高校生のときまで保育士や幼稚園の先生になりたかったんですよね。
─── そうだったんですか。ちょっと回り道をしたのはなぜ?
八戸の高校生だった時に海外遠征でオーストリアに行く機会があったんですけど、ボスニア・ヘルツェゴビナなど周辺紛争地の子どもたちがウィーンに来て、スリをしていたんですね。生きていくのにスリをせざるをえない。先生がこの子どもたちには近寄るなって守ってくれたんですけれど、私は将来子どもに関わる仕事をしたいと思っていたから、日本の子どもたちとのギャップにショックを受けてしまって。そこで、格差問題や、国際支援の仕事に興味を持つようになり、大学は国際法学科に進みました。
─── 確か、大学生の時に海外のNGOにインターンに行かれていたとか?
はい、1年間休学して、カンボジアで子どもの人身売買撲滅に取り組んでいる認定NPO法人のインターンをしていました。オーストリアでの経験が胸にずっとあって、卒業後は途上国での仕事に就こうと思っていたので、自分に適性があるか試したかったのと、将来のためのスキルを身につけたいと思って。児童保護や警察支援など危険を伴う事業は社会人の方たちが担当していて、大学生の私は子どもを売らなくて済むよう工芸品やお土産品で稼ぎを作るための工房運営の方に入りました。
─── カンボジアで何が印象的でしたか?
今につながっているのは……その当時に出会ったカンボジアの人たちが、なんていうか幸せそうに見えたんですよ。
車が壊れたとなったら30人くらいバラバラ集まって来てあれやこれや言いながらみんなで直していたり、魚を釣ったり、鳥を捕まえたり。家だって自分たちで建てていました。なんかそういう、「生きる力」みたいなのをすごく感じてしまって……。「日本人って本当に何もできないよね」みたいなことを言われたのもショックでした。
そんな頃、カシューナッツ農家を訪ねる機会がありました。このカシューナッツは日本に行くんだよ、日本がこんなに安くカシューナッツを買うから俺たちこんなに貧しいんだよみたいなことを言われまして……。カンボジアでいろんな支援をすることも必要だと思ったんですけど、結局、格差や南北問題を作り出しているのは先進国の側の問題なんだなって私の中で……。日本の地域の中で循環するような状態を作っていけば、ゆくゆくはこういう南北問題や、搾取の関係性もなくせるのかって思うようになって。
─── 関心の方向が、日本の地域に向いたんですか。
そうですね、日本の地域で農業や林業、地球によい仕事を学ぶというNPO法人地球のしごと大學の事務局に就職しました。自分も農作業や暮らしの仕事が好きですし、広くいろんな分野のゼミや講座をつくりながら、思えばここでも結局、自分の琴線に触れる問題、自分はこの分野だって思える原体験って何だろうってずっと考えていたんですね。その後、代表の高浜と結婚し、子どもが生まれたことで、さらに子どもの育ちっていうことに関心がぐっと集中してきたんだなと思います。