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第一に家族を愛すること、そして夢を追うこと。故郷がそれを叶えてくれた
横須賀直生
おかしなお菓子屋さんLiebe
福島 楢葉
私のライフスタイルを理解してくれるお客さん
─── 移住について、旦那さんは快諾されたんでしょうか。
夫とは喧嘩もしながら、ゆっくり時間をかけて話し合いました。当時は放射線のこと、食べ物のこと、子どもたちが土を触って遊べるかなど不安はたくさんありましたから、そういう場所に行くことに対して夫の気持ちをほぐすことが大事だと思っていました。また、夫は将来カフェをやりたいという夢があったので、「あなたの夢は何? 現実的にそれがやれる場所って? 楢葉で私は自分の店を開くから、一緒なら夢が叶うかもしれないよ」という話もしましたね。そういう話し合いを1年半ほど続けるうちに夫の気持ちも変化して、楢葉に移住することに決めたんです。
2019年3月に楢葉に帰ってきて、「おかしなお菓子屋さん Liebe」がオープンしたのが2020年5月。実は開店前に3人目を妊娠していて、オープンの時は妊娠7か月でした。今振り返っても「すごいな、自分」って思いますね(笑)。出産後は1か月間休んで店を再開させて、営業は週3日、厨房の中にベビーベッドを置いて仕事をしていました。自分でお店をやるからには自分のライフスタイルに合わせてくれるお客さんを見つけようと思っていたので、「赤ちゃんを見ながら仕込みと販売を同時にやるのは難しいので営業曜日や時間を限定したいと思います」とか「我が家の三番目が保育園に入園するんですが、慣らし保育で帰ってくるのでめっちゃ早いです……」など自分の事情をきちんと発信するようにしていました。そうするとお客さんも「体調悪い時は言ってね」と声をかけてくださるようになりました。
─── ドイツで気づいた直生さんが大事にしたいライフスタイルですね!
そうですね。私の人生は私のものですから、他の人になんと言われようと気にならなかったです。お店はこうあるべき、母親はこうあるべき、みたいな固定概念も気になりませんでした。Uターン者が楢葉につくったお菓子屋さんということで初めから取材依頼も多かったんですが、1年目は全てお断りしました。メディアに出てしまうと私のことを知らないお客さんが来るので、私のスタイルを理解していないお客さんが増えてしまう。そうすると家庭より仕事を優先させなければならなくなる。それから、取材ではどうしても私の活動が“復興”に絡められてしまうのが嫌でした。当初は私も楢葉を復興させなければいけないという思いがありましたが、実際に町に住んでみると町の中には復興のために一生懸命動いている人たちがすでにたくさんいて、私が肩肘張って頑張らないといけないと思わなくなったんです。私らしく、楽しくこの地域で子どもたちと夫と暮らしている。それが自分の気持ちなので。