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この感覚を信じて。暮らしの中の養蚕とシルクの文化を継承したい。

阿部倫子

「SILKWa(しるくわ)」主宰/ライター
宮城 丸森

「この地に技あり」プロジェクト、養蚕・シルク文化との大きな出会い

─── 地域の教科書って何ですか?

田舎に憧れて移住したいと来るけれど、風習や文化、慣わしみたいなものが理解できずに地域の人とトラブルが起こるとか、疲れて帰ってしまう方が全国的に多かったそうなんです。それを回避するために、地域のありのままを移住希望者に事前に見せて知ってもらおう、というのが目的です。お茶っこをしたり、お祭りに参加したり、いろんな会のお手伝いをしたり、お酒の場にも行ってみなさんからお話を聞かせてもらいました。地区を体感しながら教科書を仕上げたという感じです。

震災前に観光案内所で働いていたときに地域情報をブログなどで発信していたんですけど、やはり一つの地区で風習、文化を深く知る機会になって、地域の人たちの暮らしとか生きざまっていうのが、なんかすごく尊いなって。特別な存在に感じましたね。

─── 丸森での養蚕、シルクの文化に関わるようになったのもその頃なんですか?

そうです。そのあたりの経緯は「SILKWa(しるくわ)」のサイトにも紹介しているんですが、東北工業大学の大沼研究室のみなさんが、東北のいろんな手技を調査して技術を残そうという事業「この地に、技あり」プロジェクトの一環で、丸森に関わるようになって。養蚕農家さんはじめシルクに関わる方々との最初の顔合わせ会が2017年5月にあったんですが、ご縁があって私も呼んでいただけたんです。

養蚕やシルクが丸森の伝統産業だと知ってはいたけれど、それまで表面的な部分しか目に入っていなかったんだと思うんです。そこで初めて具体的に「こんな人たちがいるんだ!」って。養蚕農家さん、織り手さん、和紙を漉いている方々など、お互いの現場を訪ね合う活動に参加するうち、本当にすごいと思ったんですよ。なんというか、決して楽な仕事じゃないのに、この生業をみなさんが経験を重ね、自分の感覚を使って、技と仕事を守り続けているっていうこと。そのことに感動してしまって。

─── それが、地域おこし協力隊の任期ともオーバーラップしていたんですね。

そうなんです、2019年7月末に地域おこし協力隊を卒業するタイミングで起業、という選択肢があったときに、養蚕やシルクの可能性をもっと探っていく活動ができないかなと。それで、屋号をつけて起業はしたものの、飯の種になるかという意味では全然うまくいっているとは言えません。今は生活のために、半分は観光案内所での仕事に戻っています。もちろん、観光案内所の仕事も好きですし、養蚕やシルクとつながる部分もあります。

─── 地域での養蚕って本当に先細りしつつある文化というか、特に東北では震災のあとぐっと減ったと聞いています。

本当にどんどん少なくなって……養蚕農家さんも今、丸森では4軒です。いずれ養蚕は群馬など南の方の本場に集約されていくような話をする人もいます。

一時期は、伝統産業として残すためになにかできないかとか、自分1人でできるわけもないのに変なプレッシャーや焦りでもがいて、苦しかったですね。でもだんだん、文化継承なら私にもできるのかもしれないと思うようになって少し救われました。体験活動で子どもたちが、繭から出てきた糸を手で触った感触をすごく喜んでくれて。「やさしい、なんかお蚕さま触ってるみたいって」言ってくれたりするんですよ。そういう感覚もシルクだからこそだなあと。体験で興味を持って、お蚕さまを飼いたいっていう人も現れたり。それと、1人きりの時と違って、今は共感して一緒に活動してくれる仲間もできて、いろいろ相談したり、アイデアを出し合ったりできるのがすごく嬉しいです。

─── 仲間とはどんな活動をしているんですか?

ひとつは「やろっこひなっこ」という野外保育サークルの中に、つむぎ部ができました。養蚕の副産物に、出荷できないため廃棄してしまう規格外の繭や繭毛羽(まゆけば)と呼ばれる素材があるんですが、昔は地域の人たちが大事に使ってきたその素材を、いまどきの言葉で言うところのアップサイクルをして活かそうと。子育て中のお母さんたちと一緒に、廃棄されてしまうはずだった繭から作ったワタで糸を紡いだり、繭毛羽を使った作品づくりにも挑戦しながら、ちょっとした、しるくわオリジナル商品も作ったり。

もうひとつは、桑くら部で、養蚕農家さんが大切にしてきた美しい桑畑を守り生かしたいという想いから、桑の葉で桑茶を作って町内で販売したり、桑料理、桑体験などもやっています。メインでやっているのは私ともう1人なんですが、桑の葉の収穫や草刈りが大変な時には地域の人はじめいろんな方が手伝ってくれています。桑畑を使わせていただいている養蚕農家さんもいつも温かく見守ってくれています。

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