060
舞根という土地に惹きつけられ、選択してきたことが形になっていく
畠山菜奈
舞根キッチン
宮城 気仙沼
舞根キッチン始動! スピード感に自分でも驚き
─── 菜奈さんは、気仙沼唐桑半島の舞根(もうね)にある水山養殖場で働いているんですよね。あの、「森は海の恋人」のカキじいさんで有名な畠山重篤さんのお宅の……。
はい、「とと」と呼んでいるんですが、夫が次男なんです。私は水山養殖場の社員として働いていて、2010年にUターンしていたととは震災を機に漁師になり、生産者の一人として所属しています。
─── 最近、菜奈さんたち夫婦が新しいことを始めたと聞きましたが?
そうなんです。「舞根キッチン」という屋号で、地元気仙沼と近郊での牡蠣や海産物の直販をはじめました。ととは、フランスのブルターニュ地方とのご縁から養殖方法を自分なりに工夫してきたんですが、手をかけて作った美味しい牡蠣を、その背景も含めて楽しんでもらえたらという気持ちがあったんですね。でも、生産した牡蠣を普通に出荷すると、地元では見かけないことも多くて。
─── え、どういうことですか?
案外、地元のものが地元で手に入らないものなんです。どこで売ってるの? みたいな話になったり……。私もととの作る牡蠣がすごく好きで、本当は、旬の一番美味しい時期に地元で食べてもらって、そこから広がってほしいなって思っていて。そうしたら急に、流れがバーっときて動いた(笑)。
─── 何が「バーっ」のきっかけになったんですか?
2020年の2月末に三男を出産しました。1歳になったところで、新たなチャレンジがしたいなと思い、2021年の5月に保育所に預けて仕事復帰したんです。ところが、その三男が秋から大病してしまって……入院の付き添いをしながら、不安な時間を過ごしていました。
そのころ、気仙沼市主催の「アクティブ・ウーマンズ・カレッジ第5期」のチラシを目にしました。スタッフや講師が身近な人たちだったり、内容も全部興味あることばかり。参加したいけど無理だなあと思っていたら、幸い、息子が後遺症もなく退院できることになりました。カレッジは締め切りギリギリでしたが、スタッフが直接連絡してくれて、退院が決まったと同時に参加することにえいっと決めて。
─── そうだったんですね。
カレッジでのグループワークでも、頭のなかには舞根のことばかりあって。ととの作る牡蠣のことを伝えるには? みたいなことを繰り返し口に出していました。「肩書きワークショップ」をやって名刺を作っているうちに、やりたいことが明確になったというか。
三男の2歳の誕生日2月28日をみんな元気で迎えたときに、気仙沼で仲良しの友達に連絡してみたんです。大好きな彼女のお店で牡蠣の直販会できたらいいな、って。多分、頭のどこかに描いていたんでしょうね。彼女はカレッジでは、「一歩踏み出した地元の先輩」講師でもありました。
そうしたら、「是非やりましょう!」と心から応援してくれました。まずは完全予約制で、保冷した個包装の牡蠣を、スパイスカレーキットとのコラボという形で直販してみました。3月20日でした。
─── 早い、いきなり始めたんですね! キッチンカーも導入したと聞きましたが?
そうなんですよ。それも三男の誕生日、ととに「こういうことしたい」と話したら、じゃあ、営業許可取ろう、キッチンカーもいるんじゃないかってスマホで調べだして。そこからととの本領発揮で、本当に早かった。事業登録のための名前どうするっていうときにも、やっぱり舞根って入れたいよね、舞根キッチンがいいねってすぐ決まりました。