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心の引きこもりから、意欲的に生きるへ。楽しいという感覚を貯めていきたい

阿部史枝

猫八ソーイング/みち草工房/パタンナー・縫製士
宮城 石巻

「石巻まちの本棚」が街との縁をつないでくれた

─── 本が好きだったんですか?

父が本を読む人だったので、本に親しみがあるというか、本がたくさんある空間に馴染みがあるんです。家は本だらけだったんですけど、震災の時にかなり処分してしまって……。処分の時にボランティアの方が運んでくれたんですが、コンテナにバサーっと入っていく様子にショックを受けたりもして。

本のコミュニティスペース「石巻まちの本棚」ができた時に、やっぱり、本が大事にされているというか、本に対して愛のある空間、そういう感じがして嬉しくて、いいなあと思ったんですよね。そしたら、ここでお店番する人を探しているんだけどどう? って聞かれて。「石巻まちの本棚」が2013年7月末にオープンして、8月末から週1回1日のシフトに入るようになりました。

─── 本が街との縁をつないだんですね。「石巻まちの本棚」に関わっていたという話を他の方からもちょくちょく聞きます。

私は本棚に関わったことが変化のはじまりでした。震災の後、自宅の片付けも、自力でできるところまで自力でやろう、大変な人はたくさんいるんだからっていう思いが強くて、今思えば、実家の渡波地区にもボランティアの団体など来ていたんだけれど。外から来た人と関わろうなんて気持ち全然なかったんです。

自分は人付き合いが苦手だと思い込んでいて。人と関わるっていうこと自体も難しくて、「あ、違った」、みたいな。いかにその場所で自分が安全でいられるかという見方しかなかったんですよ。

─── そうですか……、そういうことありますよね。

しばらくして、一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0が運営する複合施設IRORI石巻のカフェでアルバイトを始め、行くようになりました。そこには街なかで活動してるコミュニケーションに長けている人たちがいて、何かが自分と根本的に違う。何が違うんだろう、みたいなことを考えていました。

もともと、自分から声をかけることはなくて。話しかけてくれることに対しても恐怖心が生まれて、すごく、期待を背負ってしまったような気分になってしまったり、異常に緊張したり。それまで自分からシャットダウンして最低限の人付き合いで済ませてきたので、人と関わってこなかった分、経験値が低くて、気にしてなくていいところを気にしちゃったり。大したことじゃないって気がつくまでに時間がかかったんですよ。本当はずっと、心の引きこもり状態だったんだと思います。

IRORI石巻に集まって来る人たちは感情がはっきりしていて、顔に感情がすぐに出たりすることにもびっくりしました。若いけれど人と関わりながらいろんなキャリアを積んでいる人ばかりで、先輩みたいなイメージでした。

─── 2019年秋に、そのIRORI石巻の中に史枝さんたちの「みち草工房」ができましたよね。それはどういう経緯だったんですか?

知り合いが増えるうち、成り行きだったんですけど、縫製の直接オーダーをもらい始めていました。ちょうど、仕事ってなんだろうとか、これからどうやって暮らしていけたらいいのかなって思っていた時、ウィメンズアイ が南三陸で開催した「WEと一緒に小さなナリワイ塾」に参加しました。マルシェなどでWEの活動が気になっていたのと、その頃、同じようなビジネス関係の講座があったけど、私にも参加できそうというか、もう少しハードルの低いところから話をしてくれそうだと思ったから。そこで自分に足りない部分を、作りたかったんだと思います。

そうして内輪イベントで「猫八ソーイング」という屋号を使ってみたりするうち、IRORI石巻のカフェの奥にあるレンタルスペースをシェアして、2019年10月〜2020年3月いっぱい実験的なプチ起業をやろうということになって。ちょうど自宅外の仕事場がほしいと思っていた「猫八ソーイング」の私と、ロシア産白樺板の輸入販売会社に所属するヨシコさんが入りました。その場所に名前をつけなきゃいけないとなった時、布や糸、木材の端材やパーツ、いろんな材料がいっぱいあるのを見てみんなワクワクしないかなあって思って、オープンな仕事場、誰でもフラッと来れる場所にできたらと「みち草工房」という名前にしたんです。

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