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縁あって来た福島。続く転入女性たちにも、福島を好きになってほしい
藤本菜月
一般社団法人tenten 代表
福島
知らない土地のマイナスイメージを一転させた出会い
─── 菜月さんのtentenという団体は、「転勤・転入」で福島に来る女性たちを対象にした活動をしているそうですね、つまり、tenten=転々!
そうなんです。移住が最近注目されていますが、もともとパートナーの転勤や、結婚相手の都合で、自分が選んだわけではない土地に暮らし始める女性たちが一定数いるんです。そして、知らない場所でゼロから始める彼女たちに少し手を貸すだけで、すごく早く、生き生き暮らせるようになる。この活動を始めて3年目の2020年に法人化しました。
─── そもそも、ご自身の経験が元になっているとか。福島へは転入して来たそうですが。
私、石川県の出身で、高校の時は理系だったんですが、大学を選ぶときにパラパラ見てた資料の農学部のところに「環境」っていう文字が見えて。そうか、そういうこと勉強するのいいなあって、名古屋の大学で果樹園芸学のゼミに入って桃の葉の研究をして。卒業後は農林水産省でキャリア技官として働きました。
─── なんと、霞が関で働いていたんですね。官僚、大変だったんじゃないですか?
そうですね。忙しかったですが、忙しいのが嫌というのはなくて。むしろ、国の大きな仕事の末端で、自分がやっていることの意味が見えないことの方が辛かったです。それで、転職活動を続けていたんですが踏み切れず、結局4年9か月霞が関で働きました。
転機は、同僚との結婚です。相手が結婚と同時に郷里の福島県庁に就職することになり、自分も、福島市で仕事を見つけて第2の人生を始めようって。ところが、蓋を開けてみたら、赴任地が南会津町というところでした。え、それはどこ? という感じで……。
─── パートナーが県内でも任地を転々とする、というのが想定外だったんですね。
はい、てっきり県庁のある福島市に行くと思い込んでいて。南会津町は誰も知り合いがおらず行くところもなくて、最初の半年くらいは孤独で絶望していました。インターネットで調べものばかりして。しかも、もしここで仕事を見つけても、3年後にはまた転勤。私の人生これからどうなっちゃうのって、転勤にマイナスのイメージしか持てませんでした。
でも、雪深い土地だから、冬が来たらますます家の中に閉じ込められてしまう。なんとか状況を変えたいと思って、新聞のチラシで見つけたスキー場のバイトを始めました。
─── え、スキー場ですか?
送迎付きって書いてあったんですよ! おかげで、地元の知り合いが少しずつできていきました。しかも、そのスキー場は観光協会と旅行会社も兼ねた第三セクターが経営してたんです。春にスキー場が閉まるときに思い切って、働けませんか?って聞いてみたら、駅の旅行カウンター兼売店の部門につないでくれて、契約してもらえたんです。
─── おお、仕事がつながったんですね。
それと、もう一つ大事な出来事がありました。南会津の素敵な古民家と茨城で二拠点生活をしている方のブログを見つけたんですよ。そのご夫妻が茨城の骨董市に出店されるというので、行ってみようと思い立ちまして。私も古いものが好きなので。
─── え、茨城までですか?
まだ土地勘が全然なくて、地図を見てまあ、行けるだろうと思ったら4時間以上かかりました(笑)。でも、南会津から来たと言ったらものすごく喜んでくださって。古民家に遊びにいらっしゃいと誘ってくれたんです。そこがある種のハブ的なことになっていて……囲炉裏を囲んでの飲み会に行くといろんな方が集まっていて、そのたび紹介してくださるんです。みんな、南会津が大好きで、南会津のいいところもたくさん教えてくれて。
その人たちの間で、南会津にせっかく若い人が来ても買いたくなるお土産が少ないのが残念だよねえ、みたいな話になって。じゃあ、自分たちで作っちゃおう、って盛り上がったんです。私も、面白いから一緒にやろうよって誘われて、雑貨づくりをやるようになりました。それを、働いていた駅の売店でも販売したりして。
─── 雑貨って、例えばどんなものですか?
手作り石鹸とか、会津木綿を使った簡単な小物とか。町が地域活性化の取り組みをする団体に少額の補助金を出してくれるという話もあって、せっかくだから団体にしてブランド名をつけよう、と。南会津の雪解け水が流れ出す季節をイメージしてbel*fonte(美しい水源という意味)という任意団体をつくったんです。みなさんから、菜月ちゃん一番暇そうだから代表やってよと言われて、いいですよーって気軽に受けて。これがのちに、意外な展開につながるんですが……。