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生み出したいのは分断ではなく、楽しい暮らしと美しい森
渡部友紀
家具と家の「ラ・ビーダ」/行きつけの杜プロジェクト
福島 郡山
福島の森と酔っ払いに惚れて
─── 友紀さんは群馬県出身ですよね。なぜ福島に?
学生時代にさかのぼります。東京の大学に通いながら、子どもたちにキャンプの指導をする活動に関わっていました。普段は横浜周辺で活動していたのですが、福島県北塩原村の「小野川湖」に行ったときに感動して。見慣れた常緑樹の森とは対照的な、落葉樹の明るい森だったんです。「うわー、福島の森って綺麗! 私、福島で子育てしたい」って思ったんです。当時は大学生で彼氏もいなかったのに(笑)。
もう一つは、夫との出会いです。青山のホテルでアルバイトをしていたんですけど、陽気に酔っぱらった状態の彼がゲラゲラ笑いながらチェックインしに来たんですよ。シフトが終わる間際の時間だったので、「うわ、やっば! こんな時間にこんな酔っ払いに捕まっちゃったぞ」って……。お部屋にご案内したら、ナンパされるわけですよね(笑)。「飲みに行くべ、飲みに行くべ」って。しつこくて断りきれなくて、「それじゃあ一杯だけ」って付き合うことに。でも、結局ひと口も飲まなかったですね。それより会話が面白くって。当時、父を亡くして数か月のころだったので、宗教に興味があっていろんな質問をしたんですが、彼が全部答えたんですよ。「この人おもしろーい!」と思って、2回目に会ったのが運の尽きでした(笑)。
夫は福島県郡山市で国産材を使った家具を製造・販売している「ラ・ビーダ」という会社を経営しています。指物職人だったお祖父さんから数えると三代目にあたります。当時、彼が38歳で私がハタチ。18歳差ですよ、犯罪ですよね(笑)。出会ってから6年後に結婚、福島に嫁いだという流れです。
─── 自営業のお家に嫁いで、家族の一員になるとともに会社の一員に。そのあたりはスムーズにいったんですか?
はい、私の実家も自営業だったので、抵抗はなかったですね。私は家具の専門家ではなかったので、お客さんの暮らしを楽しくするソフト面担当でした。例えば「保育園どこがいい?」とか、「最近娘の夜尿症がひどくて」とか、暮らし全般の相談に乗っていました。お客さまから「よろづ相談所家具取扱店」って命名されるぐらい、家具を買いに来るだけのお店じゃなかった。また、お客さまとの距離も近くて、一緒に飲み会したりキャンプしたり。そういうつながりがあったので、震災のときに学校の先生たちが苦しんでいるとか、農家さんたちが大変だとかそういう声が耳に入ってきました。