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デンマークに行き、日本の教育は変えられるはずだと、火がつきました

宍戸直美

一般社団法人IVENU 代表理事
岩手 奥州

教育は変えられます、変えていきましょう。

─── そんな直美さんは今、教育に関する活動に力を入れていると聞いていますが、きっかけは何だったんですか?

デンマークの教育に出会ったことです。

アイビーナの活動が岩手県の補助事業に採択されたとき、盛岡にある「いわて若者カフェ」で、イベントが開催されました。その場に、NPO法人SETの 岡田勝太さんが、私たちのグループのファシリテーターとしていらっしゃったんですが、私たちの活動について話したら、理解してくれて。

後日、彼が活動の拠点としている岩手県陸前高田市の広田町に行った時に、デンマークとつながって学び場作りをしていると教えてくれました。プレーパークや、ありのままの自分でいいのだという世界観、民主主義が大切にされていることが、私たちの大切にしていることと一致するので、なんとなく感覚が近いなと思ったんです。

デンマークには各地にフォルケホイスコーレ*という大人のための学校、言ってみれば人生の学び場があるんです。そのフォルケホイスコーレで働いている日本人の先生が来るからイベントに行きませんかと岡田さんに誘われて、参加しました。そこでモモヨ・ヤーゲンセンさんや、日本とフォルケホイスコーレをつなぎ、日本に広める活動をしている、IFAS代表の山本勇輝さんと知り合ったんです。

─── デンマーク、フォルケホイスコーレとの運命的な出会いですね。

そうですね。多分、岡田さんと盛岡のイベントで知り合わなかったら、つながることもなかったのかもしれないなと思っています。実際にデンマークに行きたいと思っていたころに、デンマークのロラン島に住んでいるニールセン北村朋子さんの存在を知りました。

朋子さんが来日したときに、デンマークやフォルケホイスコーレについて学ぶワークショップがあって参加したんです。朋子さんと喋るきっかけがあったときに、

「私はずっと市民活動をしてきて、どうしても教育を変えていきたいっていう思いがあるんだけど、自分じゃ変えられないなって思いを持っちゃって、どうにもできなくて。周りの人にも教育システムなんて変えられないよって、言われるんですけど、本当にそうなんですかね」って聞いたら、

「教育は変えられます、変えていきましょう。」って朋子さんが言うので、「ええ?」ってなっちゃって(笑)。

日本人で、「日本の教育システムを変えられます」って言う方に初めて会ったことが衝撃で。そのワークショップで、夏にデンマークのフォルケホイスコーレでサマーアカデミーをやると聞いて、単純な感じで「行きます!」と。デンマーク行きを決意、2週間の旅でした。2019年のことです。

─── デンマークには一人で行ったんですか?

外の世界を見せてあげたいなと思って、娘を連れていきました。歴史的・社会的・感覚的・政治的という4つの観点で「食」を学ぶ「FOOD UNFOLDED」というサマーアカデミーで、英語も話せなかったけど、すごい世界が広がっていました。

─── どんな世界だったんですか?

日本は幼稚園までは、ある程度の選択があり、みんな違ってみんないいって言いながら、小学校に入ると、みんな違うじゃダメで、右向け右みたいになることに違和感がありました。でも、デンマークではみんな違うし、好きなことを言うし、とてもカジュアルでクリエイティブな印象を受けたんです。そこには信頼と安心があって、目には見えないつながりを感じました。なんて素晴らしい国なんだろうと感銘を受けましたね。

80歳くらいに見えたおばあちゃんがビキニ姿で、川でワインを飲んでいたりとか。日本でそんなことをやったら、白い目で見られるようなことが普通にある。今思えば、冬場の日照時間を考えれば、夏場にやっぱりみんな日光浴したいよねって思ったりもするんですけど(笑)。

デンマークで理想とする世界が広がっているのをみて、日ごろ私が思っていたことは、そんなに夢物語じゃないし、日本だってできるはずだと思って、火がつきました。

─── そして、日本に戻ってきた、と。

はい。ますます自信がついて戻ってきたものの、結局日本に戻ってきたら、一般的な小学校の PTA や、地域とか町内会の活動は今まで通り、ギャップに思い悩みましたね。

まずはデンマークの教育や民主主義について、たくさんの人に知ってもらいたいと思って、デンマークとつながるきっかけが生まれた陸前高田市と、自分が暮らす奥州市で報告会をしました。

最終的には、食を通じて民主主義を考えるワークショップをやりたくて、合宿型の再現報告会を実施しました。フォルケホイスコーレは衣食住をともにするので、一関市にあるカフェ兼ゲストハウスの厨房をお借りして、みんなでレシピのない料理を作って、泊まって。そこから、年2回合宿をしています。

もともと日本の公民館が、デンマークのフォルケホイスコーレを元に作られてるという話を知って、本当は、日本も今のデンマークの方向へ行きたかったけど、何かそこにしがらみがあったりしてできなかったんだなっていうことがわかって、少し嬉しくなったりもしました。

─── 2021年にアイビーナを法人化して、これから力を入れていくことはありますか?

政治の仕組みや文化を考えたら、日本でデンマークと同じフォルケホイスコーレを実現することはできない。100%はできないけど、思想や理念を元にして、日本の良さを生かした子どもたちの居場所となるような遊び場、そしてデンマークの人生の学び場(フォル ケホイスコーレ)のような大人の学び場をつくりたいで すね。

最終的には、私が教育の枠で困ったので、その領域で困る子どもやママを減らしたいという思いもあります。もう少し、教育の分野で選択の自由が生まれたら、日本で暮らすことに対してゆとりが生まれるんじゃないかなって。

日本では政治の話をすることがタブーみたいになってる部分もあると思うんですけど、政治も含めて日本の社会が、自分が思う「多様性ある」社会になるように現実と理想のギャップを少しでも埋められるようなことを、これからもしていきたいですね。

*フォルケホイスコーレ
フォルケホイスコーレとは、北欧発祥の成人向け教育機関。特徴は、試験や成績が一切ないこと、民主主義的思考を育てる場であること、知の欲求を満たす場であること。加えて、全寮制となっており、先生も含めた共同生活することなども代表的なフォルケホイスコーレの文化である。

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宍戸直美
1980年岩手県盛岡育ち、二児の母。一般社団法人IVENU (アイビーナ)代表理事。一人ひとりがその人らしくいられる多様性を大事にした社会にしていきたいという想いをもち、子どもたちの居場所となるような遊び場、そしてデンマークの人生の学び場(フォルケホイスコーレ)のような大人の学び場作りを行っている。温泉や坐禅、ウォーキングが疲れた時のセルフケア。

一般社団法人IVENU https://www.ivenu.org/
Facebook https://www.facebook.com/enjoyivena/

インタビュー日 2021年6月26日
取材・文・写真 松浦朋子

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